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宙ぶらりん

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 そのあと僕達は3人で近所の焼肉屋に行った。
 アキラと下田は、さきほどの試聴会にて共通の性癖を持っていることが発覚したのをきっかけに意気投合した。昼間の2人の馴れ初めを思い返すと全く信じられないことである。
 下田が箸で肉をひっくり返しながら鼻息荒く力説する「筋肉女人至高理論」は、普段アキラの語る戯れ言とは比較にならないほど論理的で説得力があった。また、話が進むにつれて、彼は女性の筋肉のことだけにとどまらず性にまつわる事象全体について造詣が深く、「フェチズム生成理論」、「思春期における男女共学の功罪理論」、「脇の下と乳輪理論」などの、下田独自の理論、哲学を様々に確立していることが発覚した。それらの内容はどれも非常に切れ味が鋭く、彼はこの道を究めれば大学の講義室で教鞭を取るくらいの所まで簡単に行けるのではないかと、純粋にそう思わせるほどに素晴らしい世界観を持った思想体系であった。アキラは下田の言うことを理解しているのかしていないのかは分からないがとにかく楽しそうに終始ウキャウキャと話を聞いていた。
 肉と下田のエロ講義で満腹になった僕達は、食後の運動だと言って大学までの長い登り坂を歩き、キャンパス内で1番良い景色が見えるスポットで地上に降りたプラネタリウムのような夜景を見た。思い思いのファンタジーな気分にうっとり浸った男達3人は、誰が言い出したかは忘れたが、「この中の誰かが貞操を破った時にまたここに集まって祝杯を挙げよう」という熱い契りを交わした。
 当初アキラは僕の下宿に泊まる予定だったが、「畑の倉庫に閉じ込めている墨田を解放し忘れていた」ことを急に思い出し、挨拶もそこそこにバイクで奈良へ帰っていった。僕と下田はその後も僕の下宿で少し話をしたが彼も程なくして自身の下宿へ戻った。下田を見送った際、帰路を闊歩する彼の後ろ姿は希望のオーラで溢れており、昼間あれ程うなだれていたのがまるで嘘のようだった。
 くだらないことでいがみ合った人間同士が同じくらいにくだらないきっかけで今度は打ち解け合う。全ての生きる希望を失ったかのように見えた人間が程なくしてまた今までに見せたことのないような笑顔を見せてくれる。僕は、人間とはおもしろいものだ、と思った。人間は単純で、複雑で、そんな人間が生きていると色々な所に魔法があって、可能性は無限大で、それをバケツプリンに換算するとブリキバケツが何億個あっても足りないのだろう。だからもっと、幸せの種がそこら中に眠っているイメージを胸に据えて、前向きに暮らしていくことを大切にしたいと、思った。それに気付くことができただけでも、今日は実に良い1日だったと言えよう。
作品名:宙ぶらりん 作家名:おろち