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アイラブ桐生・第二部 17~19

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 アパートに戻ってから電話をかけると、お下げはすぐに出ました。
しかし電話口に出た気配はあるものの、肝心の声はいつまで待っても
耳に届いててきません。
良からぬ話かもしれないと腹をくくった上で、こちらから話を切り出しました。
ほどなくして、聞き覚えのある声がようやく、
(周りを気にするような雰囲気を伴いながら)小さく響いてきました。



「これから会ってもらえますか」と短く言います。


それだけ言うと、電話はまた無言状態になってしまいました。
今日はもう、別に用事もありませんので何時でも大丈夫です、と応えました。
快諾の返事を届けた瞬間に、電話の向こうからは、
何故かほっとしたようなそんな感じの空気が伝わってきました。



 お下げに指定されたのは、駅近くの喫茶店でした。
そういえばお下げと、昼間に会うのは初めてのことです。
太陽の下で見ると意外なほど色白で、薄いお化粧の下でちょっとだけ
そばかすが目立つことに、今日初めて気がつきました。


 しかし今日は、いつも見る飲み屋の時の雰囲気とは、だいぶ違っています。
素顔に近いお化粧のため、、別人のように見えるだけでなく、
いつもの持ち前の元気が、まったく鳴りを潜めています。
いつまで経ってもうつむいたままで、なかなか話を切り出してくれません。
(たぶん、難しい話か、言いにくいことだ・・・)
そんな気配が濃厚に漂います。
こちらからきっかけを作りました。



 「今日はもう仕事が終わりですので、時間もたっぷりあるし、
 ゆっくりすることができます。
 よかったら、すこし歩きませんか、
 天気が良いので、公園の辺りも良いと思います。
 まあ、歩く相手が私でよければの話ですが・・」



 
 お下げと喫茶店を出て、公園を目指す露路を歩き始めました。
お下げは無言のまま、数歩遅れて着いてきます。
公園に人影は無く、静かそのものの空間が待っていました。
(静かすぎるなあ・・・逆効果になるかもしれないぞ・・・)
時間の経過と共に、これはもう、面と向かって話してもらえるような
内容ではないという推測が、やがて確信に変わりはじめました。


 絶対に、厄介な話だ・・・
その話を聞いたところで、今の俺の手に負えるのだろうか・・・
そんな風に考え始めると、歩いている周りの景色さえ目に入らなくなりました。
さらに待っても埒があかないために、こちらも覚悟を決め直します。
呼びだされた用件を、正面から聞いてみることにしました。
その時になって初めて、お下げの目線がこちら見つめてきました。




 「お願い事があって、守さんのお友達のあなたにお電話をしたのですが・・・、
 厚かましすぎるような気がしてきました。
 うまく説明もできません。
 たぶん、自分一人でなんとかしなければならない問題です。
 出来ることなら、どなたかに相談をしたいのですが、
 私には、東京で相談出来る相手はひとりもいません。
 今の私には・・」

 「守にも相談が、出来ないようなこと、?。」


 お下げの目に、哀しい色が浮かびました。
まさかと思っていた私の最悪の推測が、核心を突いたようです。
小さな声での返事が返ってきました。

 「実は、できれば、明日・・
 産科へ・・・一緒に行ってもらえませんか・・」




 お下げがそれだけのことを、
すべての想いを込めてやっと言いきりました。
まだいっぱい残っているはずの、状況を説明すべきたくさんの言葉を、
全部まとめて呑みこんだまま、お下げがさらに無口になってしまいます。
固く結ばれたお下げの唇には、全ての想いが滲んでいます・・・・
やがて、公園のベンチへ崩れるようにして、お下げが座り込んでしまいました。