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アイラブ桐生・第二部 17~19

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 お下げ髪の京子の頼み事には、承諾の返事を返しました。
何とも言えない重い気持ちを引きずりながら、アパートまでは
なるべく遠回りの道を選びながら戻りました。
重大な決断をしてしまったその直後に必ず訪れる、
後悔の気持ちがもう騒ぎ始めました。
じっと噛みしめているうちに、
本当にこれでよかったのかどうかと何度も逡巡をする、
なんともやりきれないざわめきが、沸沸とこみあげています。



 「これは、おそらく俺の手にはおえない・・・」



 人口中絶。
最近のマスコミの報道などで、よく耳にする言葉です。
無軌道な若者たちを中心に、性モラルの荒廃によって生みだされてきた
(当然の結果ともいえる)社会悪のひとつです。
安易で危険な人工中絶もまた、必要悪として流行をする
きざしさえ見せはじめました。
そして例外は無く、守と京子もその問題に直面をしました。



 お下げの京子は、守の荷物にはなりたくないから、
黙って堕したいと、最後にきっぱりと言い切ってしまいました。
私では、まったく説得することができません。
やりきれない気分のまま、天井を眺めて部屋の中でゴロゴロしていました。
しかしどうにもやりきれません・・・・
(堕ろすことが正解とは思えないが、現状ではどうにもならない・・)
段々と、いたたまれない気分になってきたために、
気晴らしのために、すこし外へ出て歩くことにしました。




 表に出てから、新聞店の角を無意識に左へ曲がりました。
いつもの交差点に行き当ったところで、思わずハタと立ち止まります。
右か左か・・・・どちらへ行こうかと今頃になってから
思案していたら、ポンと、薄茶色のサングラスをかけた
(きわめて若いと思われる)女性に肩を叩かれました。

白いスーツを身につけていて、
しゃなりとしている肢体が都会風に綺麗です。
誘惑的な、甘い香水も漂いました。
(いい女だな、こういうのが、大人の女の匂いかな?)



 「なにしてんのさぁ、群馬!」


 あれ・・・意外なことに良く見ると女の正体は、百合絵です。
3人娘の、姐肌の本名は百合絵です。
それにしても・・・・
いま目の前に居る百合絵は、普段とは完璧に別の人です。
私の知っている百合絵は、髪を振り乱しながらいつも一心に画筆を動かしている、
飾り気のまったくない、そばかす美人の乙女です。
それが、綺麗にお化粧をしたうえに、細身のスーツまでを
着こなしてしまうとどこからどう見ても、成熟しきった大人の、
別の女性に見えてしまいます。




 「失礼な目で見るわねぇ~あんた。群馬。
 あんたのその失礼な目付きは、まるっきり女に飢えている目だわよ。
 それともいい女をみるのは、これが初めてかしら。
 そんなにジロジロと見ないで頂戴。
 これでも今日は、精一杯におめかしているの。
 どう・・・・私もまんざらでもないでしょう、

 いい女でしょ。」


 たしかにいい女でした。



 「ごめんごめん、そんなつもりは・・」と、こちらもしどろもどろです。


 「これから出勤なの。
 で、あんたは、どうしたの。
 所在なさそうだけど・・暇してるみたいだわねぇ~
 どうする?
 あたしも時間が少しあるから、その辺でお茶でもする。
 めったにいい女に変身しないんだもの、今日の百合絵はおすすめよ。
 そういえば・・・あんたには、女の気配がまったく見えないわね。
 彼女は居ないの、それともつくらない主義?
 わたしはどうよ、
 まんざらでもないでしょう。」



 体をくねらせながらマリりんモンローばりの、
きわめて色っぽいウインクをされてしまいました・・・・
平常時に行き会えば、たしかに悩殺されていたかもしれません。
しかしまりにも無感動に近い反応ぶりと、
さえない顔つきから、ついに百合絵に詰い詰められてしまいました。
少し口ごもっていると、いきなり百合絵が距離を詰めてきます。
2歩ほどあった空間が一気に詰まり、形の良い唇と甘い香りが急接近をしました。
長いまつげが、正面から迫ってきます・・・・
ついに負けて、今日あった事のすべてを白状してしまいました。




 「そう・・・
 それは降ってわいたような災難だ。
 よし、この百合絵さんが一肌脱ごう・・群馬のためだ。
 お店が終わったら、
 少し考えてみるから明日はわたしも着いていく。
 まかせてよ、こうみえても私は田舎の大家族の出身なのよ。
 家族の話なら、大の得意だわ。」

 家族のはなしとは若干違うとは思いましたが・・
百合絵は悠然と、形の良い胸を張って見せました。
「じゃ、また明日ね」と、後ろ姿で手を振りながら、
百合絵は颯爽とお尻を振ってお店へ出勤をしていきます。
あれ、あいつもレイコになんとなく似た雰囲気を持っている・・・・
後ろ姿を見送りながら、漠然とそんなことを感じていました。