アイラブ桐生・第二部 17~19
茨城君とさっちゃんが去ったその後も、4人で2時間余りの談笑がつづきました。
会話が途切れた瞬間に、ふと沖縄の話題が飛び出しました。
沖縄には東南アジアへの圧力のために、圧倒的な規模を誇る米軍基地が密集をしています。
沖縄自体も終戦以降、長年にわたりアメリカ軍に統治をされたままでした。
72年には本土復帰が決まったものの、いまだに戦争が終結をしていない
日本国内では唯一の『占領支配地』です。
「えっ、パスポートが必要なの、沖縄って」
「知らないのっ、あんた」
「いやいや、米軍に占拠されて、
アメリカの統治下だというのは知っているけど
まさか、そこと行き来するのにパスポートが必要なんて、
そこまでは知らなかった。」
「安保のデモに、行ったんでしょ。」
「しかしそこまでは・・・」
「施政権がないということは、
日本であっても、日本の法律が通用しないからには、そこは外国だという話でしょ。
外国ならパスポートもあたりまえでしょう」
「へぇ、そうなんだぁ・・・」
びっくりするほど、実は意外にまじめな3人娘です。
見た目と、着飾っている雰囲気とは裏腹に、
政治的にはしっかりとした自分の意見も持っています。
「そういえばどうなった、今度の沖縄派遣のはなし?」
「今年は行こうと思っているの。
一度、むこうの様子をじかにこの目でみたいもの。」
「さすが全共闘!」
「馬鹿ね、
私の兄貴が全共闘くずれだけの話だわ。
今はもう卒業をして、学校の先生を真面目にやっているわよ。
その兄貴がいつも言うの。
沖縄には、日本の未来が潜んでいる。
ただ単にアメリカに占領されているだけでなく、
やがてアジア全体も巻き込んで、
日本が戦略上で重大な役割を担うことになる。
日本が、アメリカに従属しているということの本当の意味が沖縄にある。
いまがそれを見る最後のチャンスになるだろう、
施政権返還前に一度、本当の姿を見てこいって、いつも言ってるの。
・・・だから今回こそ、優子と行ってこようと思ってる」
優子と呼ばれた、沖縄出身の女の子も同じようにうなずいています。
この時はたまたまに出てきた話題のひとつとして、気にも留めず、
ただ漠然と簡単に、聞き流していました。
しかしこれから数カ月の後に、この子と沖縄出身の優子の3人で
まる2日間の日程をかけて、沖縄を目指して旅に出ることになるのです。
作品名:アイラブ桐生・第二部 17~19 作家名:落合順平