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アイラブ桐生・第二部 17~19

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 少し遅い時間になってくるとお店も空いてきて、
カウンターの客は守と、もうひと組みのサラリーマンだけになってしまいました。
守は声をひそめてカウンター越しに、お下げ髪と先ほどから延々と話込んでいます。
そのうちにお下げ髪がなにかを守に耳打ちをすると、そのまま厨房へ消えてしまいました。
あれ・・・なんだか妙な雰囲気になってきたぞと、ぼんやり見ていると、
また、姐肌の不意打ちが飛んできました。



 「ねぇ、じゃあ、あんたも来るわね、群馬くん」



 えっと驚いて女性陣を振り返ます。
姐肌が、やっぱりという顔で待ち構えていました。



 「あんたは人の話を全然、聞いてない。
 みんなでやっているデッサン会にあなたもまぜてあげるから、
 遊びに来てくださいって言ったのに!」



 そうだ・・・・その話で盛り上がっていたところです。
ここにいる3人娘は、週に一度そろって全員でデッサンの勉強会を開いています。
全共闘くずれの兄を持つ。妹の部屋で、夕方から深夜までとにかく集中して
書きまくるという勉強会でした。
男は混ぜない主義でやってきたけれど、あんただけは特別だからといわれました。
もしもデザインをやるのなら、デッサンは欠かせないから、
武者修行に出掛けるつもりでやってこいと、重ねてクギをさされました。



 「遊び呆けて堕落しないために、
 週に一度の精神修行の場みたいなものよ。
 誘惑が多いんだもの、田舎から出てきたばかりの美人には。
 ・・・冗談はさておいて、
 地方出身は状況に流されやすいのよ。
 初めて親元を離れてきたために、最初のうちは緊張をしているけど、
 見るものも、聞くものも新鮮だもの、やがて次から次に手を出すの。
 あげく、私たちは3人そろって、最初の一年目は、遊びすぎちゃいました。
 その反省からの、勉強会です。
 見た目以上に、結構まじめでしょう・・
 わたしたち。」



 真面目な美大生ぶりに、思わずこの3人を見直しました。
そろそろ上がろうかと言う声が出て、
じゃあその時にはよろしくと言って席を立ちました。
女性陣は思いのほか呑み過ぎているために、酔いざましもかけて
すこし夜道を歩いてくると、反対側の方向へ、
もつれ合いながら歩き始めました。
その辺でつまらない男に手を出すんじゃないよと一声かけたら、
そんなに心配ならボディガードに着いて来いと、
姐肌が切り返されました・・・・


 「送り狼になってもいいのか」と再び言葉を投げると、
今夜は酒で充分に酔っているから、男に酔うのはまた明日で結構ですと、
拒絶の捨て台詞をはいて、3人組が夜の町角へ消えて行きました。


 3人へ手を振るのをやめて、帰りの方向に顔を向けた時、
お店の路地にたたずんでいるお下げの姿が、
流れる視線の中で垣間見えました。
あれ・・・何だろうとも思う間もなく、こちらの気配に気がついたのか、
ぺこりと頭をさげたお下げが、あわててお店の裏口に
駆け込んでいってしまいます。


 ふと、なんとなくですが、この瞬間にいやな予感がありました。

 そういえば、守との
カウンター越しのひそひそ話が、妙に長かったと感じたことが
いまさらのように思い出されました。
そういえば、守はいつの間に帰ったのでしょうか、それすら
まったく気がつきませんでした。