アイラブ桐生・第二部 17~19
「あら、群馬。
(東京が)初めての割には、
ずいぶんと、小洒落た処を知ってるのね~」
「へぇ~見かけに寄らず、中は広いんだぁ!」
がやがやどかどか、好き勝手な感想を口にしながら
怪奇館の3人娘とさっちゃんが現われたのは、約束時間の少し前でした。
「茨城くんは、まだだけど・・・・」
「いいからいいから気にしない、気にしない。
あいつなら、一張羅の背広にネクタイをむすぶのに手こずって
どうせ遅刻してくるから、もう勝手に始めましょう」
え、あいつが背広にネクタイ?・・・・
ほんとうですかと大げさに驚いて見せると
澄ました顔で、スレンダーな姐ごがスッパリと言い切ります。
「いつものことで有名な話だわよ、ねぇ~みんな」
当のさっちゃんも、苦笑をしています。
どうやらこうした展開は、初めてのことではないようです。
「私たちは、ダシなのよ。
まぁ、それはあんたも一緒のことだけど。
それでね、そのうちになんだかんだと茨城が理由をつけて、
苦しい言い訳をさんざんしゃべたあげくに、
さっちゃんと二人になりたがるの。
まぁね・・・・それも毎度のことだけど。」
さっちゃんは、下をむいたまま笑いをこらえています。
「ばっかなんだよね~茨城は。
さっちゃんも、もうその気になっているから、いつでもOKなのに、
あのバカったら何を勘違いしているのか、
さっちゃんの本心に気がついていないのよ。
鈍感と言うか、臆病すぎるというのかしら、とにかく
『晩熟(おくて)』なのよ・・・・
相も変わらずあの手この手で、さっちゃんにカマをかけ続けてくるんだもの。
面白いから、もうすこしだけ、みんなもさっちゃんも、
気がつかないふりをしてるだけなの。」
ここだけの話だよ、と姐肌がきつくクギをさしました。
やがて茨城君が、姐肌が言い当てた格好のままで現れました。
三畳の小上がりで、男女の6人がひしめきあいながらの酒盛りのはじまりです。
途中で、顔を出した守が一声だけの挨拶に来ましたがすぐに離れて、
一人でカウンターで飲み始めました。
やがて姐肌が言ったとおりに・・
席をたつための言い訳を、さんざん繰り返した茨城君が、
さっちゃんに、せわしない目配せをしながら赤い顔をしながら立ちあがりました。
茨城君がみんなに背中を見せて、わずかに隙を見せた一瞬に、
さっちゃんが、すかさずV字のサインをつくります。
3人娘も、すかさず返事のOKのサインを出します。
なんと全員が、両手で頭の上に大きな丸の形をつくりました。
どうやらこれも、恒例といえる決まり事のようです・・・
知らぬは茨城くん、ただ一人です。
人の恋路にもいろいろあるものだと、つくづく思った瞬間です。
あいつ、いや茨城君は、まださっちゃんを口説けていないのでしょうか・・・
人ごととはいえ、すこし茨城君が不憫になった瞬間でした。
作品名:アイラブ桐生・第二部 17~19 作家名:落合順平