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アイラブ桐生・第二部 17~19

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 やがて・・・書き上がった全員の作品を
しっかりと画帳にとじ込んでから、百合絵を先頭に、
約束通り全員で飲みに出かけることになりました。

 その行先は、最初から決まっていました。

一行は、駅裏通りの飲み屋街を一番奥まで進みます。
その突き当たりを右に曲がると、
終戦直後から今も残る古い建物ばかりが並ぶ
露地通りのひなびた景色が登場します。


 ここに、終戦直後から営業をしているという
ダンスホールがあります。
かつてこの界隈は、赤線地帯の一つでした。
娼婦やいきかう客たちで賑わいぶりを見せたというかつての路地も
いまはひっそりとしたままで、只の錆びれただけの空間がひろがっています。
ダンスホールは、くすんだビルの地下でした。
この界隈の雰囲気には全くそぐわない若い一団が、
その入口で立ち停まります。


 場違いの空気が存分に漂っています。
『行くわよ』、百合絵がひとつ生唾を飲み込んでから
先頭に立って、暗い階段をおり始めます。
地下に広がるダンスの空間は、思いの他の広さがあり、
すでに中高年の男女がバンド演奏に合わせて暗いホールで踊っていました。


 この時代で生バンド入りのダンスホールは、
すでにその役割を終えて、過去の遺物になりはじめていました。
世間では、8トラックのカラオケが人気を集めています。、
譜面台に置いてある歌詞を頼りに熱唱をするという、カラオケ時代が
すでにはじまっていました。


 ボーイに案内された一行が、
最後列のテーブルにそれぞれの居場所を決めたころ、
まばらな拍手に迎えられて、スーツ姿の守が舞台に出てきました。
頃あいを見計って、少しだけスローテンポのイントロが流れてきます。



 森新一のような、かすれた声が守の持ち味です。
久し振りに聞く守の歌唱でしたが、正直、上手くなったと思いました。
声を張り上げることもなく、ほどよく伴奏と調和をしながら
急がずに、優しく語りかけるような歌い方です。




 「踊ろうか、群馬。」



 耳元で百合絵がささやきます。