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最後の魔法使い プロローグ

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政府軍がロウア―ウェストを最初に攻撃したのは、3日前の夜だった。物静かな朝を爆発音が一変させた。街の中心から離れた場所に暮らしていたアレンは、爆発音に驚き、何事かと家の外にかけ出した。
政府軍で一番のやり手で非常な男といわれるウェズナー将軍が、ドラゴンに乗りながら、大声で住民にどなった。
「死にたくないなら、魔法使いを出せ!」
住民は震え上がってろくに声も出せなかったが、そんなことはお構いなしに、将軍は次々と家屋に火を放った。「どこにいるんだ!さがせ!」
将軍の部隊が掛け声とともに雪崩のようにロウア―ウェストに入り込んできた。アッパーの軍の手から繰り出される火炎放射や火の玉で、またたく間にロウア―ウェストの街は赤く塗りつぶされたように燃え上がった。あれほどの赤をアレンは見たことがなかった。人々の悲鳴も聞こえた。
ウェズナー将軍が探している『魔法使い』は、アレンにとってはおとぎ話上のものだった。この国の子供だれもが知っている有名な物語だ。『魔法使い』は『火』と『地』の両方の魔法を使いこなせる少年か少女だ。だが、描かれ方はロウアーとアッパーでは違っている。ロウア―の設定では子供が直面する問題を解決するが、アッパーの場合は子供をいじめる悪者として描かれている。共通するのは、物語はたいてい『それもまた夢のお話でした』という一行で締めくくられるというところだ。
だからなぜ政府軍がそれを求めているのがアレンにはわからなかった。同時に、そんな理不尽な理由をこじつけて街を焼きはらおうとしているアッパーにアレンは腹が立った。アレンは急いで家の中へ入り、母のマチルダと姉のジジにその様子を告げた。街が燃えていると聞くなり、ジジは顔を真青にして急いで自分の部屋へかけて行った。中心部にはジジとアレンの友人が多く住んでいる。水を使う魔法にたけているジジは「手伝ってくる」と言い残して家を出て行った。マチルダはジジを止めなかった。
自分も行こうと、アレンは飛び出しかけたが、母が強い力でそれを止めた。
「心配なら無用だよ、母さん。ジジほどじゃないけど、俺だって水くらい出せるから。」
アレンは母が自分を心配して止めているのだと思った。だが、マチルダの顔を見る限りそうとは言えないようだった。
「アレン、よく聞きなさい。政府軍はあんたを探しているの。」マチルダは大きく息を吸い込んだ。「…あんたが、『魔法使い』だから。」
「俺が…なんだって?」突然の告白に、アレンの頭はついていけなかった。「あれはおとぎ話なんだろ?」
マチルダは首を振った。アレンにはわけがわからなかった。
―俺は俺じゃなくて、おとぎ話なのか?
「見つかったら、殺されてしまうかもしれない。」マチルダはアレンの表情に気付かないふりをして続けた。「政府は今までそうしてきたわ。魔法使いは危険だってアッパーは思っているのよ。でも本当はそうじゃないの。」
マチルダは一瞬考え込み、大きく息を吐いてから言った。アレンには、マチルダが自分に言い聞かせているようにも見えた。
「説明したいけど、今は時間がないわ。やつらはあなたの年くらいしか知らない。それが幸いね。」マチルダは埃まみれの大きな緑のマントをアレンに押しつけた。それは古くさい型だったので、アレンもジジも外に着ていきたがらなかったので、ずっと壁にかかってものだ。「今は逃げて…とりあえずロウア―サウスのわたしのいとこに会いに行きなさい。いい?ジュダ・ジアーズよ。」
アレンはどういうことが聞きたかったが、質問する間も与えられないまま、マチルダに「早く!」と、森に続く裏庭の方へ押し出された。母の言葉通りにするしかなかった。アレンは走り続けた。赤く燃え上がる故郷をしり目に、アレンは走るしかなかった。