最後の魔法使い プロローグ
アレンはほこり臭いマントをかぶった。朝の空気は肌寒かった。
その時、近くで爆発音がした。
政府軍だろうか。
だとしたら、ここにいては危ない。見つかってしまう。
アレンはあわてて洞穴を飛び出した。幸い周りの森は深く、アレンは茂みの中に隠れて息をひそめた。
爆発音がどんどん近くなった。同時に、軍人だろうか、重いブーツが地面を踏む音も聞こえる。一人か…いや、2,3人はいる。アレンはそっと茂みの隙間から覗いてみた。30メートルほど先に、黒の軍服に身を包んだ3人組が歩いている。政府軍の歩兵だ。彼らが着ている黒の軍服は、一番階級の低い歩兵に与えられる制服だ。
爆発音は彼らの後ろの方からしている。おそらく移動用のドラゴンがまた暴れているのだろう。
「それにしても、ウェズナー将軍も悪趣味だよな。ロウア―ウェストはもう埃だらけだぜ。」歩兵の一人が口を開いた。アレンは胸をぐっと押しつけられたように感じた。故郷が焼け野原になったのをアレンは自分の責任として感じていた。
「まぁ将軍も躍起になってるんだよ。魔法使いって言っても、たかが18歳のガキだろ?」別の歩兵が続けた。
「そうそう。それについ最近までただのロウアーの子供として育ったらしいし、ろくに火の魔法も使えないって聞いたぜ。」
「まぁとにかく、そんなガキを取り逃がしたなんて、将軍は恥ずかしくてしょうがないんだろうよ。」
アレンは歩兵の声に耳をすませ、物音をたてないようにひっそりと茂みの陰に隠れていた。幸い、アレンの緑のマントは茂みにうまく溶け込んでいて、歩兵たちはわからないようだった。とにかくこの歩兵たちに見つかってはいけないとアレンは思った。
だが、姿勢を低く保とうとして、ふいに足元の小枝をふんづけてしまった。パキ、と小さく乾いた音が鳴った。アレンは血の気がさっと引いて行くのが分かった。
兵士の一人が歩みを止めて、ほかの二人に話しかけた。「…おい、今何か聞こえなかったか?」
「何のことだよ?」べつの兵士が言った。「俺は何も聞こえなかったぜ。」
「さっさと行こうぜ。どうせウサギかなんかだよ。」
「そうだよ、遅れたらお前のせいだぞ、ティル。」
二人の兵士は歩き続けようとしたが、ティルと呼ばれた兵士はアレンのいる茂みのあたりをじっと見据えた。アレンは心臓が飛び出そうになるのを抑えながら、心の中で「呪文」を唱えた。ロウアーが使う魔法では到底アッパーの魔法と戦えないが、何とか時間を稼いで、姿をくらまして逃げるくらいはできるはずだ。
「いや、だれかいるぞ!『魔法使い』のガキかもしれない」
ティルがさっとかまえた。火炎放射でこの木々を燃やすつもりだ。アレンは急いで呪文の最後の数行を唱えた。
ザザザザッ
「うわぁッ!!?」
アレンを囲んでいた茂みが急成長して、まるで木のカーテンのように歩兵たちを巻き込んだ。ツル科の植物も交じっていたのか、手足を取られて歩兵たちはろくに動くこともできないようだ。
茂みから飛び出したアレンを見て、ティルがもがきながら叫んだ。「言ったとおりだろ!あれだ!あいつが魔法使いだ!」
「誰か呼べ!」
「くそっ!!魔法も使えねぇ!」
アレンはその様子をしり目に、また森の奥へと走り出した。このまま先へ行けばロウア―サウスにたどりつくはずだ。アレンはまだ自分が『魔法使い』であるという自覚はなかったし、それし母にいとこがいるなんて初耳だったが、とにかく言われたとおりにやってみるしかないだろう。
作品名:最後の魔法使い プロローグ 作家名:らりー