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橘 四平

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「ただ、その存在をほとんどの人が信じていないだけ。四平はね、誰にも疑われずに、好きなだけ人が殺せると思って呪術という道を選んだ。彼の根本にあるのは、『死』という言葉。そこに、『快楽』を見出している。橘四平は、生まれながらの鬼だった。人間としての心を持たない、化け物。その化け物に囚われた、哀れな人間達……」
彩音さんがとても辛そうで、苦しそうで、悲しみに満ちた表情をしていた。
「やっぱり、体調が悪いんじゃ……」
「平気です。私、情に流されやすくて、つい話しの中に入ってしまうんです。その癖がなかなか抜けなくて……」
「別に直すような悪いことじゃないと思うよ?」
「有難う、そう言ってくれて」
良かった。
どうやら、大丈夫そうだ。
『資料室』
職員室の次は資料室か。
思い返せば、資料室には一度も入ったことがない。
役に立つ、たくさんの資料が保管されているが、ずいぶんと古いものもまざっており、資料室というより、まるで倉庫みたいだと聞いたことがあった。
資料室は、年に一回だけしか掃除をしない場所で、資料室だというのに、教師も滅多に立ち入らない。埃も相当たまっていることだろう。
たぶん、今日のためにあるような部屋だ。
「一年に一回は掃除をしているはずなのに、何年間も放置されたみたいな感じ……」
人がいなくなると、こうも寂しくなるのだろうか。
「結構、広いんですね」
教室二個分はある。
資料が山積みになっていて、地震でもあれば、確実に崩れてしまうだろう。
バサッ。
頭上から何かが落ちてきた。
私は、腰をかがめて、それを拾う。
「手帳……?」
何で手帳が資料室なんかに……。
誰かが置き忘れていったのだろうか。
ペラペラとページをめくってみるが、何も書かれていない。
手帳にあったカレンダーは、1993年のもの。
今が2013年だから、20年前のものになる。
「何で何も書かれないんだろう」
不思議に思いながら見ていると、最後のページにだけ、何か記入してある。
『忘却こそ、最大の恐れなり』
たった一言だけ、そう書いてあった。
「……?」
意味深な言葉ではあるが、忘れることが一番恐い事とは、果たしてどういう意味だろうか。
「そのままの意味……だったりして」
横から彩音が覗き込んで言った。
「そのままの……?」
考えても、分からないものは分からない。
手帳を山積みになっている資料の上に置いて、私たちは、資料室から第一ポイントである理科室に足を運んだ。
理科室は、実験などがあるとよく来る部屋だ。
私は、薬品の臭いが苦手な方で、毎回理科室に来ると気分が悪くなる。
「人体模型のある準備室にも寄っていかなくちゃいけないんだったよね……」
理科室から準備室に行く。
準備室は、理科室よりも薬品の臭いがきつく、早く出たいという気持ちに駆られる。
「あれっ……?」
可笑しい。
ドアから入って正面に人体模型が置いてあるはずなのだ。
光を照らし、見渡してみても人体模型は見つからない。
トントン。
肩をたたかれ、後ろを振り向く。
「見て」
彩音が天井をライトで照らした。
「……ッ!?」
思わず悲鳴をあげそうになる。
天井には、ピッタリと貼り付けられた人体模型があった。
「驚かすためとはいえ、心臓に悪い……。確か、ここに札を置いていけば良いんだよね」
木で出来た箱があり、そこには前のチームが置いていった木の札があった。
この量だと、二組の分もありそうだ。
「次は…音楽室」
やっと理科室を出られる。
暗く、静まり返った廊下を歩いていると妙な気分になる。
ザワッ。
一気に鳥肌が立ち、後ろから異様な気配を感じた。
彩音さんが後ろを振り向く。
「どうしました?」
「……ううん、何でもない」
後ろには誰もいないはず。
それなのに、誰かに見られているかのように感じる。
冷房がかかっているかのように寒い。
理科室と音楽室は、同じ階にあり、ゆっくりと歩いていても、一分ほどで『音楽室』につく。
音楽室は、理科室と同様に、楽器がたくさん置かれている別の部屋があり、その部屋に木の札を置いていくことになっていた。
「また、さっきみたいなことがあったら……」
そう思うと、音楽室のドアを開けたくない。
「早く木の札を置いて、ここを出ましょう」
彩音が私を気遣うように言った。
音楽室に木の札を置いても、後、第3ポイントと第4ポイントが残っている。
(大丈夫、音楽室なんて何時も来てるじゃない)
自分に言い聞かせる。
案外、怖がりなのだと自覚した。
彩音がドアを開けると、そこは何時もの音楽室だ。
ピアノが置いてある、見慣れた音楽室。
「いきなりピアノが鳴り出したりしなければ良いけど……」
「お願いだから、そんなこと言わないで」
恐々としながらも楽器のある部屋に木の札を置く。
何も起こらなかったことにホッとし、音楽室を出てようとした帰り際、私の目は大きな鏡に釘付けになった。普段通りの場所に置かれた、その鏡には、何やら妙なものがうつっていたからだ。
私の左隣には彩音さんがいる。
だから、鏡の中に居る私の左隣には彩音さんがうつっているはずなのだ。
そうでなければ可笑しい。
それなのに、私の左隣には、下駄を履き、赤い綺麗な着物を着た女性がうつっていた。
私が、恐怖で身体を動かすことが出来ずに居ると、女性は、こちらに向かって微笑む。
ハッとして、隣を見ると、そこには、彩音さんが居て不思議そうに私の顔を見つめていた。
「さっき鏡に、赤い着物を着た女性がうつってなかった……?」
「着物を着た女性?」
「彩音さん位の身長をした女性」
「さぁ……、私は見てないけど」
再び鏡を見る。
私と彩音さんがうつっていて、着物を着た女性の姿はない。
(見間違い……?)
「大丈夫?顔色が悪いけど」
鳥肌が止まらない。
寒い。
「早く、図書室に行こう」
私は、急ぐように音楽室を出た。
途中、パソコン室を通り、階段を上がって、すぐそこに図書室がある。
「あれ?」
階段の窓から校門が見えた。
もう、何人かは、そこで待っているはずなのだが、誰の姿も見当たらない。
その時は不思議に思ったが、すぐに気持ちを切り替え、階段を上る。
いちいち、気にしてなどいられない。
図書室には、新書が目立つところに置かれており、貸出率の高い、人気のある本が表になって柱に貼られていた。
「本……」
円卓の上に、一冊の本が置いてある。
『沖縄の魔よけ、呪い』
というタイトルがつけられたシンプルな表紙の本だ。
大きさは、文庫本を四つ並べた位で、かなりの厚みがある。
私は、その本のページをパラパラとめくった。
「……ッ!」
本の中には、たくさんの紙がはさまっていた。
紙が空中を舞い、床に落ち、私は、落ちた紙を拾い上げる。
「何これ……」
和紙に赤いインクか何かで、文字が書かれていた。
『タスケテ』
『アツイ』
「助けて…熱い…?」
何を意味しているのだろう。
その時、激しく物音がし始める。
ガタンッ!ガタンッ!ガタンッ!ガタンッ!
ガタンッ!ガタンッ!ガタンッ!ガタンッ!
「これって…」
明らかに地震ではない。
物が音を立てている……。
よくテレビや本で見る、ポルターガイスト現象に似ていた。
ズキンッ。
「あっ……」
急な頭痛。
作品名:橘 四平 作家名:扇屋