CROSS 第17話 『Difference』
「幻想共和国の紅魔館のパチェリー・ノーレッジという方に頼まれました」
エメロードという少女が出ていった後、山口は小声でそう言った。ヌヌザックはその名前を知っていたらしく、安心したという様子で、
「ああ、あの魔女か。以前、校長がこの学園に教師として招こうとしたが、断られたと言っていたな」
「あの方は身体が悪いらしいので。それで、本の件はOKですか?」
「……うーむ、どんな本なのかによるな」
山口はポケットから財布を取り出し、そこからメモを抜いた。
「えーと、『ぶにゅでもできる 魔法楽器の作り方』という本です。あそこの本棚にありました」
「魔法楽器の本か。いいだろう」
「その本と、……えーと、これ、なんて読むんですか?」
山口はヌヌザックにメモを見せた。
「どれどれ。『珠魅のすべて』?」
メモに書いてあった本の題名を読んだとたん、ヌヌザックの顔つきが変わったような気がした……。
「やれやれ、エメロードを外に出しておいて正解だったな……」
「なぜです?」
事情を知らない山口は怪訝そうに尋ねたが、
「……いや、なんでもない」
そう言うだけで、答えたくないという様子だったので、山口はあきらめた。
「その2冊だけだな?」
「ええ、そうです」
山口はメモを確認してからそう言った。
「ちょっと待ってろ」
ヌヌザックはそう言うと、円盤状の体を、目の前の机の上に水平になるように乗せた。
すると、ヌヌザックの体が一瞬光り、2羽のハトが現れた。その2羽の本棚に向かって飛んでいった。そして、1冊ずつ本を持って戻ってきた。ハトが持ってきた2冊の本は、山口が頼んだ本だった。
「図書室の者には私から話しておくから、エメロードが戻ってくる前に帰れ」
「ありがとうございます! それじゃあ、また!」
山口は本を床に置いていたナップザックに詰めると、それを背負い、ヌヌザックに一礼して図書室から出ていった。
「ハトを召喚できれば、便利なんじゃけどな」
ヌヌザックはそう独り言を呟いた……。2羽のハトが、彼の体の上にとまっていた。
作品名:CROSS 第17話 『Difference』 作家名:やまさん