ぼくとフーボの日々
五時間目は体育で、ぼくはひざのオデキを理由に見学するつもりだった。
体育の授業はとなりのクラスとの合同で、男女別にやるんだけど、球技の場合はクラス対抗の試合になる。最近はサッカーをやっているんだけど、実はぼくはあんまり得意じゃない。
だから、これ幸いとオデキを理由に見学できるのはラッキーだと思っていたんだ。
クラスの中でも、たとえばコウジくんはスポーツ万能で、なんでもこなせて、少年野球のチームに入っている。ハジメくんはサッカーが得意で市のクラブに所属している。
その二人だけじゃなく、クラスの男子の半数はなにかしらスポーツをやっている。
趣味にしても、サトルくんなんかはつりが趣味で、週末にはお父さんとでかけてるっていうし、ヨシキくんは天体観測が趣味だ。もちろん勉強が趣味(?)で、がんばって東大に入ろうと塾のはしごをしているやつだっている。
ぼくにはこれといった趣味も特技もない。いつも適当でなんでもいいやって感じだ。
本当はケイコちゃんの前で、かっこよくゴールを決められたら最高なんだけどさ。
なんてことを考えていたら、フーボの声が頭の中にひびいた。
「まさとくん。いったいなにが始まるんですか? ガーゼをとってください」
「サッカーだよ。おまえには無理だ」
「無理かどうか、とにかく見えるようにしてください。ケイコちゃんにかっこいいところを見せたいんでしょ」
(まったく、考えてることがつつぬけかよ)
ぼくはひざからガーゼをとってグラウンドに行った。
「まさと。むりすんなよ」
コウジくんが声をかけてくれた。
「うん」
試合が始まってからしばらくはいつもの通りで、ぼくにパスは回ってこない。フーボも様子を見ているようだ。
ところがだんだんとフーボがこうふんしはじめ、それにつれてぼくの足は勝手に動き出した。
「まさとくん、次、相手が右にパスをしますから、走り込んでボールをうばいます。それをハジメくんに回してください」
フーボの指示通りにやったら、なんとうまくいっちゃった。それどころか、ぼくからハジメくんにまわしたボールは、ハジメ君の見事なシュートで一点を叩き出した。
まわりのみんなもおどろいたけど、ぼくが一番びっくりした。
「まこと。ナイスなパスだったぜ」
クラスで一番サッカーがうまいハジメくんに言われて、すごくうれしかった。フーボのおかげだ。
初めて見たはずなのに、フーボはまるでサッカーをよく知っているようで、次から次へ相手の出方を先読みしてぼくに教えてくれた。
まるで名(めい)監(かん)督(とく)のようにぼくに指示を出す。まだゴールこそ決めていなかったけど、パス回しがみんなうまく行って、ぼくからボールを受けたやつは続々とゴールを決めていた。
いよいよ試合時間も残りわずかになって、バスケットの試合を切り上げた女子が体育館から出てきた。男子の応(おう)援(えん)のためだ。
五対〇のスコアをみて、ぼくたち一組が勝っているので女子はきゃあきゃあ言って喜んでいる。ケイコちゃんもうれしそうだ。
(ここでゴールが決められたらなあ)
ぼくは思った。すると、フーボが言った。
「まさとくん。いよいよだよ。次は真ん中からくるから、正面切って走ればいい」
正面きって? 前をふさがれたらどうしよう。ぼくは不安だったけど、フーボを信じてまっすぐ切り込んだ。
なんと、あのハジメくんがぼくにパスを回してくれて、
「まさと。思いっきりいけ!」
とさけんだ。ぼくはもう夢中で、でもまっすぐボールをけった。
次のしゅんかんはまるでスローモーションのように見えた。まっすぐ飛んだかに見えたボールは、相手のゴールキーパーの手にふれる直前で、外側にカーブして、ゴールの網につっこんだ。
「やった」
ぼくはケイコちゃんの方をみた。ケイコちゃんもぼくをみて満面の笑みでブイサインをした。
「やった。やった」
「今日はまさとの大かつやくだ」
クラスのみんながぼくを胴(どう)上げしてくれた。
家に帰ってからも、ぼくのこうふんはさめなかった。
「それにしてもフーボ。おまえ、どうしてサッカーのことがわかったんだ?」
「試合が始まってからようすを見ているうちに、どういうスポーツなのかイメージがわいてきたんです」
「おまえの能力のうちか」
「たぶん、そうです」
「おかげでケイコちゃんにかっこいいところ見せられたよ。ありがとうな」
「いえ、そんな」
フーボは照れていた。