ぼくとフーボの日々
「まさと。まさとぉ」
ほらきた。夜も九時近くになって、ぼくを呼ぶ声がする。ぼくは部屋に閉じこもっていて、きこえないふりをしていた。声の主は階段をどすどすあがってきて、いきなりドアを開けた。
「ねえ、あんたの足にフジツボがはえたんだって?」
部活でおそくかえってきたお姉ちゃんだ。
(今度こそ催眠術をかけてくれよ)
(は、はい)
「見せて。見せて」
お姉ちゃんときたら、ずかずかと部屋に入ってきたかと思うと、ベッドに寝ころんでマンガを読んでいたぼくのズボンに手をかけた。
「なんだよ。あっち行けよ。フジツボなんかじゃないよ。ただのオデキだってば」
「いいから見せてよ。あ、これね」
抵抗したけど、毎日スポーツできたえているバカ力のお姉ちゃんにはかなわない。あっというまにズボンをぬがされちゃった。
「こらこら、フジツボ君。あなたがしゃべれるのは知っているんだからね」
(ま、まさと君。だめです。さいみんじゅつがききません)
(え? なんで?)
(わ、わかりません)
フーボが困っているのが伝わってくる。しょうがない。こうなっったらオデキだって言いはるしかない。
「だからオデキだって言ってるだろ」
「あら。だったら針でつついてウミを出せばいいでしょ」
と言うが早いか、かばんの中から裁縫セットを取り出した。そして針をフジツボにつきさそうとした。
じょ、冗談じゃない。そんなことされたらぼくが痛いじゃないか。
「ご、ごめんなさい」
たまりかねたフーボがついにしゃべった。
「すみません。オデキじゃありません。フジツボです」
「きゃあ、かわいい。すごいわね。まさと。あんた、都市伝説の体験者よ」
お姉ちゃんはごきげんだ。今度は携帯電話を取り出すと、写真をとろうとした。
「や、やめてよ。みんなに見せる気だろ」
「いいじゃん。おもしろいじゃない」
そんなのんきなものじゃないよ。まったく脳天気なんだから。
写真をとるのはなんとかあきらめさせたけど、お姉ちゃんはフーボがえらく気に入ったらしく、おしゃべりを始めた。
フーボもお姉ちゃんと気があったようで、二人が話し込んでいるうちに、ぼくはいつの間にか寝てしまった。