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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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ぼくとフーボの日々

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「まさと。足の具合はどう?」
 夕飯のあと、お母さんが聞いたので、
「うん。大丈夫だよ。痛くない」
と、答えると、ぼくたちの会話を聞いていたお父さんが言った。
「なんだ、まさと。足、どうしたんだ?」
「うん。病院にいったらオデキだって」
「どこだ? 見せてみろ」 
 ぼくはいっしゅんためらった。でもさっき、フーボが催眠術ができるって言ったから、お父さんにもオデキに見せてくれるだろうと思ってみせたんだ。
 ところが、フーボのやつときたら!
「こんにちは。お父さまですね。よろしくお願いします」
 なんて言ったもんだから、お父さんはいすから転げ落ちるわ、お母さんはお茶を吹き出すわで、たちまちパニックになってしまった。
「オ、オ、オデキがしゃ、しゃべったぞ。じ、じ、じ、人面そうか?」
「いいえ。わたしはフジツボです。このたび、まさとくんの身体に住まわせていただくことになりました」
 ぼくが困っていることがわかっていながら、フジツボのやつは、落ち着き払ってあいさつなんかしたんだ。お父さんもお母さんも顔面そう白になっている。どうすりゃいいんだ?
「まさと。いったいどういうことなの? お医者さんはオデキっておっしゃったわよね」
 お母さんはふるえた声で聞いてきたけど、ぼくにも言いようがない。
「だから、あの……オデキということで」
 すると、お父さんは、男らしいところを見せようと思ってか、三回くらいせきばらいして、落ち着いたふりをして、
「そ、そうか。フジツボか。ま、よろしく」
と言うと、いすに座りなおして、お茶を飲み始めた。湯のみを持つ手が小きざみにふるえていたけど。
 ぼくはその場にいづらくなったので、早々に自分の部屋に退(たい)散(さん)した。
「困るじゃないか! なんであいさつなんかしたんだよ! 催眠術で見せてくれると思ったのに」
 ぼくはかんかんにおこった。フーボはすまなそうに小さくなって言った。
「だって、まさとくんのご両親にはごあいさつしなくちゃと思ったから」
「それがよけいなことなんだよ。オデキのふりしてくれればなんてことなかったのに」
 ぼくは泣きたくなった。お父さんやお母さんはまだいい。もう一人、知られたらやっかいなのがいるんだ。それが一番困るんだ。