ぼくとフーボの日々
それにしても、フジツボ人間か。いや、それじゃあそのものずばりでかっこわるいな。まるで妖(よう)怪(かい)だよ。
うーーん。それじゃあ、フジツボ仮面。フジツボマンとか。フジツボレンジャーって、これはほかに何人かいないとだめだし、フジツボライダー……小学生はまだオートバイに乗れないから、これもだめだ。ぼくは自分が全身フジツボだらけになった姿を想像してみた。
「げ。やっぱりやだな」
そのうち夕飯だとよばれたので、キッチンにおりていったら、今日も帰りが早いはずのお姉ちゃんがいない。
「あれ? お姉ちゃんは?」
「もうそろそろくるはずよ。昨日と同じ時間って言ってたから」
「でも、もう七時過ぎたよ」
家から駅まではゆっくり歩いて十分だ。昨日と同じなら、とっくに家についているはず。
「まさとくん。大変です。緊急出動です」
いきなり、フーボが叫んだ。何かを感じたらしい。
「お父様、警察に電話してください。お姉さまがおそわれています」
「ええ?」
お父さんもお母さんもとつぜんのことに、ぼうぜんとしている。
「場所は倉庫のわきの空き地です。早く!」
倉庫わきっていうと、駅から近道だけど、人通りが少なくてあぶない場所だ。
「わ、わかった」
お父さんが電話を手に取ったとき、ぼくは家から飛び出した。
そうして、フーボの意識のまま勝手に足が動いて、倉庫わきの空き地に走った。
空き地に着くと、お姉ちゃんが数人の男と格闘していた。
「お姉ちゃん」
「あ、まさと。警察呼んで。こいつら昨日の」
昨日の二人の男は、ひきょうにも仲間を連れてお姉ちゃんにしかえしにきたんだ。
一人の男が後ろから角材をふりあげた。
「しぶといアマだ。これでもくらえ」
「あぶない。お姉ちゃん」
ぼくはお姉ちゃんを突き飛ばした。男のふりあげた角材がぼくの背中に当たった。
バキッ!
鈍い音がして、おれたのは角材の方だった。しかも角材があたったというのに、ぼくはちっとも痛みを感じなかった。ぼくの背中をいっしゅんでフーボがおおってくれたからだ。
「まさとくん。変身しますよ」
「お。おう」
なんだかへんに度胸が着いたぼくは変身ポーズをとった。
「お、ちびのくせに。ヒーローきどりか?」
男たちがバカにしたように、にやにやしながらぼくにこぶしをふりあげた。
「へんしーん!」
たちまちぼくの体はフジツボにおおわれた。
「うわ、な、なんだ。こいつ。フジツボの……ば、化け物!」
男たちはひるんでにげようとしたけど、にがすものか。
「フジツボパンチ!」
「フジツボキック!」
ぼくはあわせて五人の男たちを、次々にのばしてしまった。
おまわりさんが来て、パトカーに乗せられるとき、目を覚ました男たちは口々に、
「フジツボのお化けだ」
とわめいていた。
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
「うん。あっちこっち殴られたけど。まさとがくるのがあと一分おそかったらやられちゃってたわね。ありがとう」
「お礼なら、フーボに言ってよ。フーボが予知してくれたんだから」
フーボをみると、元気がない。
「フーボ。どうしたんだ?」
「まさと君。わたしはもうだめです。力がなくなりました」
「なんで? どうしてだよ」
「たぶん、今までの力を一気に全部使いはたしてしまったようです。これ以上まさと君の体にはいられません」
フーボの声はだんだん弱々しくなっていく。
「まさと君。地球の平和はまさと君が守ってください」
そういって、フーボの意識はとぎれた。
「フーボ。フーボ!」
フーボは答えない。
「フーボ、死んじゃったの?」
お姉ちゃんに聞かれたけど、よくわからない。がっかりして家に帰ると、疲れがどっとでたぼくはそのまま眠ってしまった。
次の日は土曜日で、学校が休みなのが幸いだった。フーボの意識がもどらないばかりか、ぼくまで熱がでて、寝込んでしまった。
「新聞に夕べのことがのってるわ」
お母さんが読んでくれた。犯人たちが「フジツボのおばけ」って言ってることまで書いてあるので、きっと、これを読んだらケイコちゃんは気づくだろうなって思った。