ぼくとフーボの日々
次の日、学校に行くと、ケイコちゃんが教室のすみで何人かの女子と話をしていた。聞くともなく聞いていると、どうも電車で男にからまれたっていうことらしい。
(え? じゃあお姉ちゃんが助けたのはケイコちゃん?)
そのうちの一人が、ぼくにそのことを告げたあとで、こう言った。
「それでねえ、助けてくれた高校生のお姉さんもこの駅でおりたんですって。まさとくん知らない?」
ぼくはどきっとした。フーボも反応したけど、ぼくはすぐに(よけいなこというなよ)とフーボに言って、適当に答えた。
「うーん。知らないなあ。もしわかったら教えるよ」
だって、お姉ちゃんが助けたのがケイコちゃんとは限らないからね。
予鈴がなったので、みんな自分の席に着き、ケイコちゃんもぼくのとなりの席に座った。
「大変だったね。ケイコちゃん」
「ええ、バイオリンのおけいこの日だったの。いつも車でママが送り迎えしてくれるんだけど、たまたま用事があったので、電車で帰ってきたの……。そしたら」
ケイコちゃんは涙ぐんだ。よほどこわかったにちがいない。
このときぼくはふと思った。ぼくならどうしただろう。ケイコちゃんを守ってやれただろうか。もしそれが本当にお姉ちゃんだったとしたら、男二人に立ち向かったお姉ちゃんは、やっぱりすごいのかもしれない。