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茶房 クロッカス 番外編

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「あのう、悟郎ちゃん。――」
「――うん?」
 俺は改めて彼の顔を覗き込むようにして、
「どうした? 小橋さん。なんか今日は変だよ」と言った。
「うん…実は……」
 小橋さんは困ったような顔をして「ゴメン!」と、いきなり謝った。
「何だよいきなり。何を謝ってんの?」 
俺は驚いてそう言った。しかし言ってすぐ、まさか……と、思った。

「だからそれ、俺なんだよ」
小橋さんが何とも言えない複雑な表情で言った。
「えっ? えっとーー。つまりー、この本を書いたのが小橋さんだってことー?」
俺は小橋さんの顔をまじまじと見つめた。
「ああ、そうなんだ。ゴメンよ。悟郎ちゃんに一言の断りもなく……」
そう言った小橋さんの言葉の最後の方は消え入りそうに――。
「――へえぇー。こりゃ驚いた。小橋さんだったんだ! これ書いたの」
「うん、ゴメン!」
そう言うと小橋さんはいきなり顔の前で手を合わせた。
「そんな…止めてくれよー。別に謝ることないって! アハハハ……」
突然笑い出した俺を見て小橋さんが目を見開き、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

「悟郎ちゃん、怒ってないの?」
「怒るわけないじゃん!」
「……」
「だって、自分や自分の店のことが本になってるんだよー。そんなこと滅多にあることじゃあないぜ。俺の方がお礼を言いたいくらいだよ」
「ふう〜〜」
 小橋さんはとびきり大きなため息をつくと、
「良かったあー。いつ白状しようかと、それがここん所の最大の悩みだったんだあ」
「ふふっ、そんなこと…馬鹿だなあ」