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茶房 クロッカス 番外編

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「それはそうと、最近なんだか新しい趣味ができたんだって? 奥さんが、そのせいでパチンコにも以前みたいには行かなくなって、部屋に籠もってることが多いんです――なんて言って笑ってたよ」
「うーん……」
そう唸っただけで何も言わず、彼は何だか困ったように視線を泳がせ、その視線がカウンターの片隅に置いてあった本「茶房クロッカス」の上でピタッと止まった。そして突然むせた。
「ゴホッ! ゴホゴホッ!」
「どうした?」
俺が心配気な視線を流すと、少し落ち着いてから、
「いや、何でもない。ちょっと……」とまた言い淀んだ。

「――で、新しい趣味って何?」
彼が落ち着いたのを見定めて、俺は再度尋ねた。
「――なあ、悟郎ちゃん。そこにある本は?」
彼は俺の質問には答えず、いきなりそんなことを言い出して、その本に向けて顎をしゃくった。
「ああ、これね」
 俺は本を手に取り、彼の目の前にかざした。
「ほら見てよ! びっくりだろう? 最初タイトルを見てあれって思ったんだよ。俺の店と全く同じ名前だからさあ。でも手に取って、中を開いて更にびっくり! どう見ても主人公は俺なんだよ」
「……」
「こんな本が出てたなんて。小橋さん知ってたぁ?」
「う、うん……」
「なんだ」
 俺はちょっと驚き、
「小橋さんは知ってたのかぁ。――だったら教えてくれれば良かったのに」
俺がそう言うと、更に小橋さんは黙り込んだ。

「ねえ、一体誰だと思う? これを書いた人。きっとうちの常連さんの中の誰かだと思うんだよなあ。でも、考えても分からないんだ」
そこまで言うと、ようやく小橋さんは顔を上げ、一言聞いた。
「で、その本どう? 面白い?」
「うぅーん」
 俺は手のひらを顎に添え頬杖を突くと、
「まっ、自分のことだからねえ。面白いとは言いたくないけど……でも、比較的事実をありのままによく書けてると思うよ。これだけ書けるっていうことは、よっぽど頻繁にここに来てるってことだよなっ。じゃないと、とてもここまではねえ……」