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茶房 クロッカス 番外編

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『茶房クロッカス』
そのドアがカウベルの音と共に開き、一人の男性が『やあ!』という風に右手を挙げながら入ってきた。
「いらっしゃ〜い」
誰よりも早く、ルイが可愛く迎えた。
「やあルイちゃん。今日もちぃママ頑張ってるね!」
そう言うと彼はいきなりヒョイとルイを抱っこした。
しかし、言わばこれは、彼が来た時の恒例行事みたいなもので、ルイも嬉しそうに彼に抱かれている。

「ずいぶん抱き慣れてきましたね」
沙耶ちゃんがそう言ってふふっと笑った。
「まあね。ここで毎日ルイちゃんを抱っこしてるからね。少しは上手にもなるさ。この調子ならいつ孫ができたっていいんだけどなあ」
「息子さんたちまだ結婚しないんですかぁ?」
「そうなんだよ。一体いつまで脛をかじるつもりなんだか……。いい加減結婚して、ルイちゃんみたいな可愛い孫の顔を見せて欲しいよ。まったく」
そう言ってルイにニッコリ笑顔を向けると、
「さあ〜」と言って彼はルイをゆっくりと降ろした。

ルイとのささやかなスキンシップを終えると、彼はゆっくり店内を横切ってカウンター席に着いた。
「やあ、いらっしゃい。今、仕事の帰り?」
改めて俺はそう言うと、何だか毎回こう言ってるな――と気付いて思わず苦笑いした。
そこへ沙耶ちゃんがさりげなくお冷やを持ってきてカウンターの上に置く。
彼は一言沙耶ちゃんに、
「ありがとう」と言うと、俺の方に向いて、
「――そうさ。今日は早番だったんだよ。で、その笑いは何?」と聞いた。
「あははっ、見られたか……。何でもないさ。それより、いつものでいいかぃ?」
「ああ、いつもので。――なんか引っ掛かるなあ、さっきの笑い」
彼はどうでも俺の苦笑いが気になるとみえる。しかし、もうそのことには触れず、俺は別の話題を投げた。
「――そう言えばさぁ、二、三日前、奥さんがここに来たよ。知ってる?」
「えっ! 奥さんって俺の?」
「もちろん!」
 そう言って俺は大きく頷いた。
「へぇー。あいつ、そんなこと何にも言ってなかった」
「何だかやけにこの店が気になってたみたいだったけど、何か話したの?」
「う、うん。まあな」
何だか妙に言い淀んだ。
俺は、あれっと思いながらも気になっていたことがあったので、また話を変えた。