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夢見 多人
夢見 多人
novelistID. 35712
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スケッチブックをもう一度

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 椅子に座って、スケッチブックを机の引き出しにしまった。携帯電話のメールをみると、入試どうだった、といった内容のメールが山のように届いていた。そこで俺は、そうだ、俺には友達も一杯居る、割とポジティブな人間だったな、と思い返した。でも、今はメールを返すにしても、何か嫌な面倒臭さがある。俺の返信の返しを見たくない。第一、人の合格がどうのこうのって聞いてくる奴は、大抵心にゆとりがある奴だろう、俺はそう思ってちょっと嫌気が差したりもした。
 そんな数ある友達の中で、メールを送ってきていない奴がいた事に気づいた。秋波通だ。俺の高校の同級生で、常に成績上位を保ってきた奴だ。あいつはどうしているのだろう。何故メールを送ってこないのだろう。俺はそう思って、無意識の悪意が無いように、自分も落ちたことを書き添えて、メールを送った。
 秋波は確か東堂大学のはずだ。東堂といえば、日本の大学で数多くの研究者を輩出している大学として有名だった。ただ、うちの高校は偏差値的にそれほど高い高校なわけでもないから、挑むような奴は希だった。
 数分して、秋波からメールが返ってきた。返事は端的に“落ちた”としか書かれていなかった。それだけ、ショックが大きかったに違いないと思った。だから俺は“そうか、残念だったな”と書いた後、これからどうするんだとそれとなく聞いてみた。俺ほど貧乏ではないけれど、秋波の親御さんだって家に何もしない人間を置くわけにはいかないだろう。何かしら話して、決めたに違いない。俺は卑怯ながらも、それを参考にしようとした。
 返ってきたメールには、大体こんなことが書かれてあった。

「浪人する。薬の研究者になる夢は捨てない。親とも話したけど俺を塾に入れるほど余裕はないから、独学で頑張れって言われた。模試代ぐらいは出してくれるって言ってるけど、僕の夢のためにやることだから、自分で何とか金貯めて頑張るつもりだ。お前はどうなんだ」

 ここまできて、俺は、こいつのきっちりした心構えに、結構感動した。俺より裕福で、俺より少しゆとりあるのに、自分のやるべきことをきっちり弁えている奴って、そうそういないんじゃないだろうかと思った。それに引き替え、俺はなんてみっともないんだ。そう考えているうちに、今すぐ、はっきりと、何かを宣言しなければいけない気分になった。返信のメールを打つうちに、俺は母に言われたことをすっかり忘れていた。

「俺も浪人する。一年間必死に勉強すれば、もっと良い大学にいけるはずだ」
 
 
 返ってきたメールは、そうか、お互い頑張ろうな、という儀礼的な返事だった。母には、もっと上のランクを目指している事は、秘密にしておいた。目的の為には何かが犠牲になる必要すら感じて、俺は、一番大事だったスケッチブックすら、破り捨てた。そうだ、やらなきゃ行けないことの為には、その他一切を捨てなきゃ行けない。躊躇ってはダメだ。俺は、そんな衝動に駆られたのだった。