アイラブ桐生・第二部 14~16
「俺は断然、手塚だな。
第一、画の勢いが違うもの、
これからの時代は、冒険活劇かSFものだと思うけど、
群馬のすきな作家は誰だ。」
「永島慎二で、『フーテン』と『漫画家残酷物語』。
あと、面白いと思うのは、つげ義春の『ねじ式』かな
怪奇物が得意な水木しげるというのもいるが、話は面白いが、
画自体が、すきじゃない。」
「なんだよ・・・・全部、月刊ガロの作家だな。
まぁ、それでも群馬の片田舎に住んでいる割には、
いい感度をしているほうだ。
つげ義春に関しては、俺も面白いと思っている。
しかし、やっこさんは筆が遅すぎて、
全まったく新作を出さないからなあ~
俺はやっぱりなんといっても手塚だ。
雑誌は、月刊COMが命だな。」
「うん、手塚プロ(正式には虫プロ)はすごいね。
今度、アトムが映画にもなるそうだね。」
「数ある手塚作品のなかでも、アトムだけは駄目だ。
所詮は、小学生か、そのへんのガキ向けの科学漫画にすぎん。
俺のいち押しは、火の鳥シリーズだな。
第一、スケールそのものが違う、こいつは超大作だ。
神代の時代から、近未来までの
不死鳥をテーマ―にしてるんだから、こいつは凄い。」
やはり茨城くんは、熱狂的な手塚ファンのようです。
この後も次から次へと、手塚治の作品の話が延々と留まることなく続きました。
やがて、突然何かを思いついた茨城くんが、
「そうだ、待ってろ群馬、一人いいやつがいる。」とひょいと部屋を
飛び出していってしまいました。
※「ガロ」は、青林堂出版の月間マンガ雑誌として1964年に創刊され、
白戸三平の「カムイ伝」などで脚光をあび、
多くの新人作家たちを輩出してきた新進の漫画雑誌です。
編集者側からの介入がすくなく、多くの作家が意欲作や野心的作品をたくさん書き、
それらを取り上げてきたことで、革新的な漫画雑誌としてたかく評価されました。
「COM」は、これに対抗して虫プロが1967年に創刊された月刊誌です。
ともに、全共闘時代の学生たちに大きな支持を得た漫画雑誌です。
なお、水木しげるがこの時代に、ゲゲゲの鬼太郎の前身にあたる、
「鬼太郎夜話」をガロで連載していました。
作品名:アイラブ桐生・第二部 14~16 作家名:落合順平