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星と月と幽体

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あの体験が忘れられない。ほんのいっときは夢かと思ってみた。それでも何度かあの音楽を聴きながら眠っていると、幽体離脱は本当に出来ることがわかった。しかし、その日の体調とかが関係するのか、自由自在にとは行かないのであるが。自由にならないのは戻ることだったが、何となくではあるが、ある程度時間が経つといつの間にかもとに戻るのではないかと思えた。

残念ながら、あの若い女性の部屋には行くことが出来なかった。これは公序良俗のフィルターとかがあって、そのせいで出来ないのではないか、などと思ってみたりもした。もし、幽体が他人の部屋で見つかってしまったら住宅侵入罪になるのか、とばかなことを考えてしまった。


まるで透明人間になると悪さをしたくなる心理と同じだろう。でも透明人間より断然リアリティのある現象であり、実際に経験しているのだから。そんな風に離脱をくりかえして、大胆になってきたせいか、ある日彼女の部屋に浮かぶことに成功した。それは思ってもみなかった衝撃的なシーンだった。

なんと! 布団の上に浮かんでいる彼女を見てしまったのだ。幽体は他人には見えないものと思っていたが、幽体同士は見えるのだろうか? 彼女が何か気配を感じたように顔をオレの方を向けた。

彼女は可愛いこぶしを口にあてて、驚愕の目でこちらを見ている。やはり、幽体のオレ見えるのだろう。オレは心配ないよというように、静止したまま微笑んでみせた。落ち着きを取り戻した彼女は、布団に寝ている実体の自分見て、それから好奇心いっぱいの目でオレを頭からつま先まで眺め回す。オレは幽体のくせに照れてもじもじとしてしまった。

作品名:星と月と幽体 作家名:伊達梁川