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星と月と幽体

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彼女は寝ていた。口を半開きにして、いびきをかいている。顔中のシワがいびきで波紋のように動いているように見えた。とっさに目をそむけることもできず、嘔吐感に襲われた。幽体が嘔吐? オレは自分に疑問を投げかける。なんとか理性を取り戻したオレは、目の前で寝ているのは、このアパートに長く住んでいるらしいおばあちゃんだとわかった。

まだ、自分が思うような所には行けないことを知ったオレは、急に恐怖に襲われた。思うような所に行けないということは、自分の部屋に戻れないということではないか。オレは盛り上がりもなく、ものすごい感動も無かった自分の一生を思った。お父さんお母さんごめんなさい、と思った時にあの音楽が聞こえてきた。

目の前に自分が見えた。どうやら自分の部屋に戻れたようだ。片方の耳から外れたイヤフォンから音楽流れている。オレは電源をOFFにしようとして、幽体ではものを動かすことが出来ないのを思い出す。

音楽の音量が大きくなった。オレは半覚醒のまま携帯音楽プレーヤーの電源をOFFにした。オレは夢を見ていたのだろうか? いや、そんなことはない……夢にはないリアリティがあった。思い返しているうちに、あれは幽体離脱だったとほぼ確信をもった。

作品名:星と月と幽体 作家名:伊達梁川