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砂金 回生
砂金 回生
novelistID. 35696
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トレーダー・ディアブロ(8)

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 隊長のサンダーソンが立ち上がって西京に伺う。
 西京は状況を彼に説明しようと思ったが、モニター画面を見て思い留まった。
 既にミサイルの到着予定時間が十五秒後に迫っている。今から彼らに状況を説明して脱出してもらう時間は無い。
「すまない、皆!」
 西京は咄嗟に叫んでキーボードを叩き、現れた青い画面にパスワードを入力した。
 すると、その瞬間、プラネタリウムの天井が開き出し、出入口にシャッターが下りた。
「何だ?」
「どうした?」
 いきなり動き出したプラネタリウムを見て、隊員達に動揺が広がる。
「西京、一体……?」
 サンダーソンがもう一度西京に何が起こっているのかを尋ねようとした。
 そして、丁度その時だった。
 なんと隊員達が立っている床が割れたのだ。それは、まさに落とし穴の様に真ん中からバカッと割れた。
 もちろん、その上にいた隊員達は全員下に落ちて行く。
 このトレーディングルームは、崖の上から突き出た形で建てられている。
 つまり、この下は海になっているのだ。
 急に床が無くなったSWT七名は、遥か三十メートル下の太平洋に落下して行った。
「うわああああ……!」
「ああああああああ……!」
 彼らは何が起こったのか理解出来ずに、叫び声と供に落ちて行った。
 プラネタリウムは天井と床を開けて、側面以外は空洞になった。そして、中央には骨組みに支えられたガラスの球体が浮かんでいた。
 西京は隊員全員が海に落ちたのを見て、安堵の息を吐いた。
 それから、彼はまた大急ぎでキーボードを叩いた。
 もう時間が無い――。
 ミサイル到着まであと五秒。
 西京は素早くキーボードを叩きエンターボタンを押した。
 そして、自分の座っている椅子の下に付いているレバーに手を掛けた。
 しかし、その瞬間、西京の目にミサイルが飛び込んで来た。
 彼は轟音を立てて近づいて来るミサイルを睨んだ。
 次の瞬間、プラネタリウムは爆炎に包まれた。
 チャートを表示していた壁のディスプレイも、中央で球体を支えていた支柱も全て爆風に吹き飛ばされた。
 その爆風はプラネタリウムのみならず、隣の暖炉の部屋も吹き飛ばし、それでも勢いを失わず、西京の家の屋根を剥いで窓ガラスを叩き割った。
 爆炎は上空に消え去り、爆発の勢いで巻き上げられた砂埃が渦を巻いて西京宅を覆った。
 そして、黒煙が晴れて来るにつれ、少しずつ西京の家の様子が明らかになった。
 プラネタリウムは跡形も無く消え去り、西京の自宅は玄関部分だけを残して瓦礫の山と化していた。
 そして、この瓦礫の中で生きている者は誰もいなかった。

   ※

 サンダーソンは三十メートルの高さから海に飛び込んだ。
 彼の体はその勢いで海中十メートルは沈んだ。
 ここは、海だ――。
 彼はそう判断して、海面を目指して泳いだ。
 ボディーアーマーを装着しての水泳はきつい。海面が実際よりも遠く感じられた。
「ぷはーっ!」
 サンダーソンは勢いよく海面に顔を出すと、大きく息を吸った。そのまま辺りを見回す。
 すると、彼のすぐ隣でユングが同じ様に顔を出した。
「ぷはーっ!」
「ユング!皆、大丈夫か?」
 サンダーソンが波間から顔を出して辺りを見回す。
 すると、近くの海面で仲間達が次々と顔を出すのが見えた。
 どうやら全員無事の様だ。
「一体、何が起きたんだ?」
「分かりません。突然、床が抜けた様に感じましたが……」
 やはり、誰も事態が飲み込めていない。
「西京の奴……一体、何をしたんだ?」
 サンダーソンは海面から三十メートル上のトレーディングルームを見上げた。
 まさにその時だった。
 上空のトレーディングルームが突然光った。
 そして、その直後、凄まじい轟音を立ててトレーディングルームは爆発したのだ。
 その爆風はサンダーソン達の所まで届き、彼らをもう一度海に沈めた。
「ぐわっ……!」
「ごぼごぼ……!」
 不意を衝かれた彼らの鼻に口に海水が流れ込む。
 海中でもがく彼らの近くで、崖から落ちてきた鉄の塊がいくつも海の底に消えて行った。
 暫くの後、彼らは再び海面から顔を出した。
「ぷはーっ!」
 サンダーソンは海面で大きく息を吸う。
 彼はもう一度隊員の無事を確認しなければならなかった。
 全員ゴホゴホと咽せているが、大した怪我は無い。
「何だったんだ、今のは……?」
 隊員達が顔を見合わせて尋ねた。しかし、誰にも分からなかった。
 SWTの隊員は全員で恐る恐る頭上を見上げた。
 トレーディングルームは黒煙に包まれていた。この時点でサンダーソンは何かが爆発したのだと悟った。
 そして、その黒煙が少しずつ晴れていく。
 その黒煙が晴れた時、彼らが見上げた場所には、先程まであったトレーディングルームは無かった。
 そこにあったのは、剥き出しの曲がった鉄パイプが何本か刺さっているだけの、ただの崖だった。

   ※

 グレリアとロミーナを乗せたレクサスLXは、ドライブ・サウスと呼ばれる国道を飛ばしていた。
 次の交差点を右に曲がれば、西京の自宅に続く岬の道だ。
 グレリアは西京に何が起こっているのか分からなかった。
 先日、社会保障局の人間が現れはしたが、まさか保安局の特殊部隊が出て来るとは想像もしていなかった。
「デムッ!」
 彼は勢いよくハンドルを切り、交差点を右折した。
 タイヤが悲鳴をあげて、彼らの体に横方向にGがかかる。
「ロミーナ! もうすぐディアブロの家だ!」
 グレリアがハンドルを立て直しつつロミーナに告げた。
 彼女は自分の体を支える為ドアを押さえながらコクリと頷く。
 二人供、何を話したら良いか分からず、それ以外は無言だった。車内にはただレクサスのエンジン音だけが響いていた。
 彼らはフロントガラスに現れた西京の家を、ただじっと見ていた。もうすぐ彼の家だ。
 育也様、待っていて下さい――。ロミーナは助手席の手すりをギュッと握った。
 しかし、その時だった。
 突然、彼の家から爆炎が上がったのだ。
 その瞬間、地面を揺るがす様な轟音が響き、グレリアは思わずブレーキを踏んだ。
「きゃああああ……!」
 急ブレーキを掛けたせいで、ロミーナの体は前に飛ばされそうになり、シートベルトが彼女の肩に食い込んだ。シートベルトをしていなければ、彼女は頭からフロントガラスに突っ込んでいただろう。
 そのフロントガラスに砂が叩き付けられてビシビシと音を立てた。砂煙に覆われて前が全く見えない。
 グレリアは恐怖のあまり頭をハンドルに押し付けて伏せた。
 ロミーナは手すりを握りしめたまま、歯を食いしばって目を閉じた。
 しかし、暫くすると車内に静寂が戻って来た。
 グレリアが恐る恐る顔を上げると、霧がかかった様に視界が悪くなっていた。だが、彼の車にさほどダメージがある訳ではなさそうだった。
「大丈夫か、ロミーナ?」
「え……ええ、大丈夫です。一体、何が……?」
 彼女は頭を振って、前を見た。
 彼女の目に映ったのは、黒煙を上げる西京の家だった。
「そ、そんな!」
 彼女は自分の口を手で押さえた。ロミーナの顔から血の気が引いて行く。
「馬鹿な! 何だ……あれは……?」