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砂金 回生
砂金 回生
novelistID. 35696
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トレーダー・ディアブロ(8)

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 スミスは仕方無く手の平でバンバンと球体のガラス面を叩いた。
 流石に西京もスミスの方をチラリと見たが、それでも彼はトレードを続けている。
「ヘイ! 西京! ここを開けろ!」
 スミスは叫びながらバンバンと球体を叩いた。
 すると、西京がスミスの方を見て、ニッコリ笑った。
「そこ、危ないよ」
 次の瞬間、西京の乗っている球体がいきなり上に上がり、更に横に移動した。
 球体に上半身を預けていたスミスは、振り落とされ地面に尻餅を衝いた。
「ぐわっ!」
 スミスが落とされたのを見て、隊員の一人が慌てて引き金を引いた。
「ぎゃっ!」
 その瞬間、乾いた銃声と同時に別の隊員の悲鳴が上がった。
 その悲鳴を聞いて、別の隊員が引き金を球体に向かって引く。
 続く銃声。
「うわっ!」
 しかし、またもや別の隊員が悲鳴を上げる。ユングだ。
 隊員達は一体何が起こっているのか分からず、一瞬にしてパニックが広がる。
 残る隊員は全員球体に向かって引き金を引こうとした。
「待て! 撃つな!」
 しかし、それを寸での所でサンダーソンが叫んで止めた。
「皆、パニックになるな! あの球体のガラスは防弾ガラスだ! 球体を撃っても弾が跳ねてこっちが危ない! 同士討ちになるぞ!」
 彼は瞬間的に何が起こったのか悟り、それを隊員達に伝えた。
 そして、彼は皆が落ち着いたのを見て、ユングの方に走って行く。
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です……」
 隊員の一人が撃った弾は、球体の防弾ガラスに弾かれてユングの防弾チョッキに着弾したのだ。
 弾は防弾チョッキの肩の部分に食い込んでいた。防弾チョッキが無ければ下手すれば致命傷の位置である。しかし、これなら打撲程度の怪我で済むだろう。
「そっちは?」
 サンダーソンが撃たれたもう一人の方を見る。
「大丈夫です……!」
 撃たれた隊員は自力で立ち上がっていた。こっちも大した怪我では無さそうだ。
 しかし、もし先程全員で引き金を引いていたら、どうなっていたか分からない。
 彼らは危うく同士討ちをする所だったのである。
 すると、西京が乗った球体が元の位置に戻って来た。
 相変わらず、彼はトレードをしている。
 どうやら、先程彼が動いたのは、プラネタリウム側面のチャートを近くで確認する為だった様だ。
 この時点でやっとサンダーソンは、この装置がトレードの為にあると気付いた。
 報告されていた大量破壊兵器はこの部屋のどこにも見当たらなかった。
「どうした、サンダーソン?」
 銃声を聞いたジョイナーがサンダーソンに聞いてくる。
「いえ、特に問題はありません……。西京は防弾ガラスに囲まれた球体の中でトレードしています。銃を使うと、弾が跳ねて危険です」
「球体? フン、銃が使えなくてもプラスチック爆薬があるだろう? さっさと片付けてしまうのだ!」
「プラスチック爆薬ですか? お言葉ですが、彼は丸腰です。それに彼は我々に包囲されています。最早、彼は袋の鼠です」
「君の意見は聞いていない。早く任務を遂行したまえ!」
 ジョイナーはそれだけ言うと無線を切った。
 サンダーソンは首を振った。
 SWTの隊員は全員、プラスチック爆薬を所持している。それは主に鍵がかかったドア等を破壊する為にある。ジョイナーはそれを西京の球体に使用しろと命令してきたのだ。
 だが、プラスチック爆薬はドアを吹き飛ばす程の威力を持っている。それを小さな球体に使用すれば、中の西京の命は無い。
 サンダーソンは迷った。
 上官の命令は絶対である。しかし、彼が見る限り、西京は丸腰で、我々に危害を与えるつもりも無い様だ。それに、彼は既に隊員達に包囲されていて、逃げる事が出来ない。いくら相手がディアブロと呼ばれる男だとしても、食事も取らずにずっとトレードが出来るものではない。いつまで彼があの中でトレード出来るか分からないが、いつかあの中から出て来ざるを得ない。彼らはその時西京を捕らえれば良いだけの話である。
 当初彼らが受けた命令は、出来るだけ生かして彼を確保する事である。
「フン!」
 サンダーソンは鼻で笑い、ヘッドセットのインカムのスイッチを切った。やはり、丸腰の民間人を爆死させる事は出来ない。
 彼はその場に座り込むと隊員に命令した。
「よーし! 西京があの球体から出てきた所を捕らえる! それまで全員その場で待機だ!」
「イエッサー!」
 隊員達の声がプラネタリウムに響いた。

   ※

 グレリアは自宅の庭で愛車のレクサスLXを洗車していた。
 カルフォルニアの春の日射しは、彼の愛車をピカピカと輝かせてくれた。
 彼は思わず歌ってしまっていた。
 しかし、ふと彼の視界に見た事のあるメイド服の女性が映って、彼は歌うのを止めた。
「ロミーナ!」
 彼はその女性がロミーナだと分かると、水を止めて彼女の元へ駆け寄った。
 彼女はゼーゼーと息を切らせていた。
 ロミーナはグレリアの姿を見つけると、両手を膝につけて中腰になった。
「ボ……ボス……、大変です……! い……、育也様が……!」
「ディアブロがどうした?」
「エ……S……WTが……、育也様の……、自宅の方へ……!」
「SWTだって?」
 グレリアの眉間に皺がよった。
「保安局の特殊部隊が一体何の……?」
「わ……、分かりません……。でも……、嫌な予感が……します」
 ロミーナは息を整えながら何とかグレリアに伝えた。
「よし、分かった!」
 グレリアはそう言うと、今洗車したばかりのレクサスLXに乗り込み、助手席のドアを開けた。
「乗りな、ロミーナ!ディアブロの家に向かうぞ!」
 ロミーナはコクリと頷くとレクサスに乗り込む。
 二人を乗せたレクサスは、タイヤの音を軋ませながらグレリアの自宅を出て行った。

   ※

 エリック・ジョイナーはロサンゼルス市郊外にあるロサンゼルス郡保安局の事務所にいた。
 彼は貸し切りになった局長室の中で、額に汗を浮かばせていた。
 本日、本来この部屋の主である保安局局長は、会議で留守である。だがジョイナーには分かっていた。会議なんてここを出る言い訳で、どこかでこの作戦の様子を伺っている筈だ。
 西京宅に侵入した特殊部隊からは、あれから全く連絡がない。彼らがプラスチック爆薬を使って西京を抹殺したのであれば、すぐに連絡がある筈だ。
 特殊車両に設置されたカメラからの映像を見ても、爆発物が使われた痕跡は見当たらない。
 カメラの映像は代わり映えのないものだった。
 彼は何度か通信を試みたが、現場との通信は途絶えてしまった。恐らくサンダーソン隊長が通信を切ってしまったのだろう。
 このサンダーソンの行動は、ジョイナーには全く予想外だった。サンド・ストームと呼ばれる隊長は、もっと冷血な人間だと思っていたが、プラスチック爆薬の使用を拒否するとは……。
 彼は隊長に本日中に彼を確保しろと伝えなかった事を後悔した。ジョイナーは特殊部隊が突入すれば、一時間もあれば作戦は終了すると思い込んでいたのだ。
 恐らく隊長は人的被害を最小に抑える為に、西京が力尽きるまで見守り、出てきた所を捕らえるつもりだろう。
 確かにこの作戦なら、誰も死なずに西京を確保出来る。