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砂金 回生
砂金 回生
novelistID. 35696
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トレーダー・ディアブロ(8)

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 彼は宇宙空間に浮かんで、遠くにある地球を見下ろしていた。
「宇宙はこんなに広い。人間はもっと自由に生活出来る筈だ。だが、金という概念が人間から自由を奪っている。今の人間は、金に縛られ、支配されている。そんな世界、俺は嫌だね……」
 彼は呟いた。
 そして、彼は自分の机のモニターに映った地球に手を伸ばした。
 すると、その時、不意にモニター画面が変わり、地球の代わりにWARNINGの赤い文字が浮かんだ。
 西京は我に返ってキーボードを操作する。
 彼がエンターキーを押すと、モニターに三台の車が道路を走っている様子が映し出される。車種は三台ともハマーのワゴン、そして側部にSWTのペイントが施してある。
「来たか!」
 西京はトレードを中断し、ガラスの球体のコクピットを出た。
 西京の自宅は岬の先端の断崖絶壁に立っている。そして、そこに向かう道路は一つである。
 彼は岬の入り口付近に監視カメラを仕掛けているのだ。
 ハマーの側面にプリントされたSWTの文字はロサンゼルス郡保安局の特殊部隊の物だ。彼らはSWATと自分達を区別させる為に、Aを除いたSWTと自分達を名乗っている。ご丁寧に組織名を車体にペイントしてくれるアメリカの風習が有り難い。お陰で彼らの到着を事前に察知する事が出来るのだから。
「ロミーナ……! ロミーナ!」
 彼はトレーディングルームを出ると、家政婦の名を叫び彼女を探した。
 彼女はキッチンで本日のランチを作っていた。今日も彼女は短いスカートのメイド服姿である。
「ロミーナ……」
 西京は彼女の姿を見つけると、ツカツカと彼女に寄って行く。
「あら、育也様?まだランチは出来ていませんが……。本日は育也様のお好きなスープカレーでございます」
「すまない、ロミーナ。今日で君のここでの仕事は終わりだ。今すぐホルヘの元へ返ってくれ」
 彼はそう言うと、彼女の腕を掴み、彼女を玄関へと引っ張って行く。
「あ……、でも、まだスープカレーが出来ていません」
 彼女は作りかけのランチの事を心配したが、西京は強引に彼女を玄関から出した。
「今まで有り難う、ロミーナ」
 それだけ言うと、彼はドアを閉めた。
「育也様!」
 彼女はその瞬間になって、やっと自分が追い出されようとしている事に気が付いた。しかし、何も出来ないまま、彼女は家から追い出されてしまった。
 彼女は暫くどうしたら良いか分からず、その場に立ち尽くしていた。しかし、やがて諦めて西京の家の敷地を出て、トボトボと道路を歩き始めた。
 彼女はメイド服姿のままだったが、西京の家に着替えを取りに行く気にはなれなかった。一体何がいけなかったのか――。彼女は考えたが答えは出なかった。
 彼女が悩みながら坂を下りていると、三台のハマーが彼女とすれ違った。
 彼女は呆然とその三台のハマーを見送った。一目で分かる、特殊部隊の車両だ。
 その車両を見て、彼女の頭に先程の西京の様子が蘇った。彼は珍しく慌てていた。
 次の瞬間、ロミーナの目は見開かれた。
 この坂の上には、西京の自宅しかない。
 彼女の頭の中で、先程の西京の台詞がリピートされた。
「今すぐホルヘの元へ帰ってくれ」
 彼女はハッとしてその場に立ち止まり、頷いた。
「分かりました、育也様!」
 彼女はメイド服姿のまま、猛ダッシュでグレリアの家を目指した。
 西京の身に何かが起ころうとしているのだ。

   ※

 マイク・サンダーソン隊長率いるロサンゼルス郡保安局特殊部隊は西京の自宅の敷地の前に到着した。
 通常、特殊部隊の突入作戦では、ターゲットの逃亡を防ぐ為、車両を家の三方向に配置する。しかし、西京の自宅は岬の先端の崖に建てられており、事実上、正面の門を押さえてしまえば脱出は不可能だったので、全ての車両が正門に停められた。
 サンダーソンを含む隊の全員は車両から降りて、車の陰に隠れた。全員黒のボディーアーマーにヘッドセットを装着している。そして、全員の手にアサルトライフルが抱えられていた。
 今回の作戦に参加する隊員は七名。全員が実戦経験者である。
 特にマイク・サンダーソンは、湾岸戦争時にイラクの首都バクダッドを、多国籍軍の空爆の中突き進み、敵基地を奇襲した男で、SWT隊員達から砂嵐(サンドストーム)と呼ばれ恐れられていた。
 サンダーソンは全員が配置に就いた事を確認して、ヘッドセットのインカムに告げた。
「こちらサンダーソン。目的地に到着しました。これより突入を開始します」
「分かった。出来るだけ生かして西京を確保しろ! だが、抵抗する様であれば殺しても構わん。相手は悪魔(ディアブロ)と呼ばれるテロリストだ」
「イエッサー! 砂嵐が悪魔を鎮めてみせますよ」
 彼は本作戦の指揮官に返事をした。
 通信相手は社会保障局のエリック・ジョイナーである。
 本来であれば、SWTはロサンゼルス郡保安局の管轄なので、今回の作戦は保安局が指揮を執るべきである。しかし、今回はアメリカ経済の問題という点と、ジョイナーが政府関係者で唯一の西京との接触者という点を考慮して、エリック・ジョイナーが本作戦の指揮官に任命されたのだ。
 しかし、裏を返せば、今回の作戦が失敗に終わった場合、その責任は全て社会保障局のジョイナーが負うという事になる。つまり、ジョイナーより上位の政府高官達が、西京の件についての責任を負う事を嫌ったが為に、彼に白羽の矢が立ったという訳である。先日の警告後にトレードを行った事により、西京育也は追いつめられていたが、同様にそのトレードによりエリック・ジョイナーも追いつめられていたのだ。
 ジョイナーが今回の作戦で受けた命令は一つだけだ。
「西京のトレードを本日中に終わらせる様に……」
 なぜ、本日中なのかジョイナーには分からなかったが、彼が本日トレードを完遂してしまうと困る人間がいるのだろう……。
 ジョイナーはモニタールームに映し出された西京の自宅をじっと見つめた。
 失敗は許されない――。
 サンダーソン率いるSWTのチームは西京の自宅の門を開けて彼の家に近づいて行った。

 ピンポーン。

 サンダーソンは玄関に着くなりインターホンを鳴らした。
「西京! ロサンゼルス郡保安局だ! ドアを開けろ!」
 彼は西京の家に向かって叫ぶと、続けざまにチャイムを鳴らした。その間に、他の隊員達が家の周囲を囲む。
 返事は無い。
 しかし、偵察衛星ラクロスからの映像により、西京が昨夜から家にいる事は確認済みである。
「西京! 保安局だ! 家から出て来るんだ!」
 サンダーソンはもう一度叫んだ。しかし、やはり返事は無い。
 彼は周囲を確認して、ドアノブを回した。
 鍵がかかっている。
 しかし、SWTの砂嵐にかかれば、これしきのドアは問題にならない。何の変哲も無い木製のドアだ。これならプラスチック爆薬を使うまでも無い。
 彼は抱えていたアサルトライフルの銃底でドアノブをぶっ叩いた。
 ガツンとドアに衝撃が走り、ドアノブが斜めに傾いた。
 玄関のドアは、ドアノブと鍵が一体となっているタイプの物が多い。そういうタイプのドアは、ドアノブが外れれば鍵も外れてしまう。