アイラブ桐生 12~13
京友禅も加賀友禅も、絵師の宮崎友禅斎がその基礎を作りました。
時代の変遷とともにそれぞれの特徴が生まれます。
加賀友禅は落ち着きのある写実的な草花模様を中心とした絵画調が
主に描かれるようになりました。
これに対して、京友禅は
流麗な集合配列の模様を特徴としています。
その違いぶりは、加賀においては武家文化があり、京では公家文化という
それぞれの社会背景の違いによるものとして考えられています。
絵画調の柄を特徴とする加賀友禅は、その写実性を強めるために、
白上がりの線の強弱や、さらに線の太し細しの変化をつけることにより、
いっそうの装飾効果を高めています。
加賀友禅は「加賀五彩」とよばれる
臙脂・藍・黄土・草・古代紫の五色で構成をされています。
京友禅よりも沈んだ色調であることがその特徴です。
デザインはより写実的で、武家風の落ち着いた趣があり、
刺繍や箔押しなどの技法は使わずに、ぼかし」や「虫食い」などの
表現でアクセントをつけています。
ぼかしの方法も、京友禅が内側から外に向かってぼかしているのに対し、
加賀友禅は、外側から内側に向かってぼかします。
これが噂の、加賀友禅か。
こんな趣味がお前に・・・と思う暇もなく、
レイコが店の中に消えてしまいました。
(おい、お前、大胆な原色のアロハのままだぞ・・)
店内は、充分すぎるほどの冷房が効いていました。
入った瞬間からの、ほんのわずかな時間で、所狭しと飾られている、
加賀友禅の雅(みやび)さに、思わず圧倒をされてしまいました。
すべてが、太平絵巻の世界です。
店員と話しをしていたレイコは、案内をされるままに
隣の部屋へ消えてしまいます。
美術館か資料館のように、四方に飾られている加賀友禅に見入っていたら
ほどなくして、小物を抱えたレイコが戻ってきました。
さっきまで沈んでいたレイコの目が、
濡れたように潤んでいました。
レイコの瞳には、喜怒哀楽の気配が良く出ます。
嬉しい時のレイコがいつも見せる、幼子(おさなご)のような
輝いている瞳です。
どうやらお目当てのものは、
無事に見つかったようです。
会計を済ませ、丁寧に包装された商品を
大事に抱えてお店を出ると、緊張の糸が切れたかのように、レイコが、
私の肩へもたれてかかってきました。
肩へかかる重みに思わず、歩く速度を緩めました。
背中から腕をまわしてレイコ肩に手を置きました。
レイコも無言のままに私の腰へと、腕を回します。
二人が産まれて初めて、いままでにないほど密着をした瞬間でした。
車に戻ってからも会話はありません。
無理もありません。
車中一泊で群馬を出発してから、もう丸2日がたちました。
その間に、まともに眠れたのは昨夜の民宿だけで、
それ以外は車の中で過ごし、さらに炎天下の探し物で、
レイコはずいぶんと歩きまわりました。
もう、疲れもピークのはずです。
やがてレイコが、静かな寝息をたてて、眠りへ落ちていきました。
大事に抱きしめていた小物のお土産を手元から取り、
後尾座席に置いてから、毛布を掻き寄せて胸元へかけてあげました。
反応してうすく目を開けたレイコが、
今度は自分の頭の上まで毛布を引き上げます。
そのまま、また、深い眠りへ落ちて行きました。
・・・とりあえず、昨日来た国道を群馬に向かって
逆戻りをする形で走りだしました。
作品名:アイラブ桐生 12~13 作家名:落合順平