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Life and Death【そのよん】

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 ――ぬっぺふほふ、またはぬっぺぽうと呼ばれる妖怪がいる。目も耳も鼻も口も身体もない、ただ顔のようなものに手足が付いた妖怪である。特にこれといって悪さはしない(というよりも図だけでそれがどのようなことをする妖怪なのか話にないだけの)妖怪であるが、その想像図のインパクトとユーモラスな姿は印象に強く残るので、一度は見たら忘れられない妖怪である。
 また、中国には太歳という妖怪がいる。土の中に居る肉の塊のような妖怪で、掘り起こしてしまった場合は再び埋めなおさなければ凶事が起こるとされる。最近になってこれが正式に掘り起こされ、正体は変形菌というケチが付いてしまったが、その発見はある意味では妖怪ファンにとって一つの希望だったのではないだろうか。
 これは、それらの特徴を併せ持つ生き物だった。ぬっぺふほふよりも手足は短く、太歳のように怪我をしてもすぐに治ってしまう。
 だが、身体は腐りつつある。なのに、太歳の再生能力を持っているので、結果腐りながらも生き続けている。
 ――いや、腐っているというよりは肉が爆ぜているように見える。ぶくぶくと膨らみ、やがて破裂する。そしてその肉片はすぐに腐ってしまう。結果、血を流しながら生き永らえるのだ。
 めぞん跡地が静まり返った頃、彼女は自分の部屋から出る。それの気配を感じたからである。
「二度目はありませんよ」
 他の人間は姉妹を探してあっちこっち当たっているようだった。しかし、五月雨はめぞん跡地に残った。そう仕向けたといった方がいいのかもしれない。他の住人らには姉妹を探させ、自分は原因の解決に向かう。なるべくなら、この肉槐に関わってほしくないというのが五月雨の本音でもあった。
 だから、提案した。姉妹を探してみてはどうかと。タイミングはシビアだったが、どうにか『犯人を捕まえてしまえばいい』という意見が出る前に誘導できてよかった。その本音を知ってか知らずか、住民たちは思い通りに動いてくれた。
 それは闇の中で蠢く。
「あなたは一体なんなのですか? 何故ここに現われたのですか?」
 それは、怯えたように闇の中に潜ってゆく。
 しかし、既に行き止まり。ストーブの陰に隠れるソレは、目に見えて怯えていた。
「……きっとそれは、私が原因なのですよ」
 ふと、闇の中に響き渡る声。闇の中でも明るいワンピースと肌、そして闇に溶け込むような黒い髪の毛。伊皆シアだ。
「まあ、それしかないよね。君がここに来たってことは」
 そして、その背中から現われる闇に溶け込む黒いワンピースに、闇の中でもなお明るい髪と肌。伊皆シノである。
「ごめんね、この子、根は悪い子じゃないんだ」
 そう言って、シノはその肉塊に歩み寄ってくる。
「……なんなのですか、それ」
 そして、その肉槐を優しげな手付きで抱き上げる。彼女の手には大き過ぎて、抱え上げると言った方が正確かもしれない。
「この子は、大沢かなめちゃん。私たちの友達だよ」
「な……」
 そんなバカな。どうすれば人間がそんな形になってしまうのだ。そんな醜い肉の塊に、どうすればなれるというのだ。
「……この子は、イモータルの……私の心臓を実験的に移植された女の子、なのです。再生機構の暴走と、生の概念の内包によって私達に最も近く、そして違う生き物となってしまった子、なのです」
 そう、辛そうに言うシア。そして、ゆっくりと『かなめ』に触る。
「……ごめんなさい。……私は、今まであなたから逃げてきました。私たちが関わった所為で、こんな姿になってしまったあなたに、私は、どんな顔をして会えばいいのか、分かりませんでした」
「い……い」
 その肉塊は、潰れた声帯で声を発する。おおよそ言葉とは言えないような言葉だったが、ソレは確実に、その場にいた彼女らに通じた。
「……何故、なのですか。私がいなければ、あなたは、こんな姿に成らずに……」
「ソレはねシアちゃん、かなちゃんは優しい子だから。シアちゃんは何も悪くないって知ってるからなんだよ?」
 ぽろぽろと、大粒の涙を溢し始めるシア。『かなめ』は、その小さな指を伸ばして、その涙を拭う。
「ごめん、さみちゃん。汚れ役になっちゃうけど、この子を死なせてあげて」
「それは……」
 それはきっと自分にしかできないことだ。シアは再生機構の暴走と生の概念の内包と言っていた。心臓を移植したことで、『かなめ』は不完全ながらイモータルへと姿を変えたのだ。本来ならばシアと同じイモータルを殺すことはできない。だが、『かなめ』はシアの心臓を移植して出来上がった不完全なイモータル。本来の『かなめ』のみを殺すことによって、彼女を殺すことができるだろう。
「だったら、心臓だけ殺せば……」
 いや、ダメだ。彼女の心臓はもう存在しない。心臓を殺したところで、そのまま死んでしまう。そもそも、心臓だけとはいえ、シアの身体の一部を殺すことなんてできる筈がない。シアを殺すことができないのだから、心臓もまた同じだ。
「も……ヴ、じ、にだ……」
 それは苦しそうに息を吐く。口すら良く見えない。その肉塊から分かるのは、一つだけ飛び出た目玉だけだ。
「……分かりました」
 確かに、これはもう死ぬしかない。死ぬことでしか『かなめ』は救われない。死こそ、今の彼女にとっての『救い』であった。
「……ごめんなさい」
「いいのです。それが役目なのでしょう」
 そう言って、五月雨は息を吐く。
「――僕の『言葉』を『聞き』なさい――」