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紅いスポーツカー

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 恐ろしくきれいな声と発音だった。たまらなく可愛いらしい声でもあった。食事中の笹島の左後方から、あの紅い車から現れた娘がそう云い、さっと離れて行った。笹島は口の中に食物が入っている声で「えっ?あのう……」と声を発した。食事を中断してあとを追っても良いのだが、その直後右後方から声をかけられてしまった。こちらも若い女性である。黒のスーツ姿だ。
「お食事中すみません。わたくし、新発売の自動車保険をご紹介させて頂いております。如何でしょうか」
「……ああ、きのう更新したばかりですから、パンフレットだけ置いてってください」
「わかりました。来年はぜひ、お願いしますね」
 そのとき、屋外からあのスポーツカーの爆音が聞こえた。笹島は半ば安堵するとともに、半ば惜しい気持ちでもあった。



作品名:紅いスポーツカー 作家名:マナーモード