紅いスポーツカー
どういうことだろう。追い越して行った車があとから来た。同じ車が二台で同じ高速道路を走っているのだろうか。それとも途中のどこかで停車していたあの車に気付かなかったのだろうか。そんな筈はない。サービスエリア内のどこかから移動して来たのだと、笹島は結論を下した。
笹島は更に驚かされた。その車の中から現れたのは、花柄のワンピース姿の若い魅力的な女性だった。その長いストレートヘアは、初夏の太陽光を受けて輝いている。見たこともない素晴らしい黒髪である。そして、ウエストが細い。非常に長い足が細い。それが、病的な細さではなく、極限の美しいラインを見せている。そして、その横顔は、余りにも美しい。その顔が振り返り、笹島に向かってにっこりと笑った。慌てて眼を逸らせた笹島はその刹那、恋をしていた。相手の運転に注文をつけることもできなかった。
彼はトイレに行ってからひとり、レストランで寂しく食事をした。そこに若い女の姿はなかった。彼はもう一度彼女に会ってみたかった。彼女は笹島が今までに見たことのない美しい女性だった。だが、笹島は彼女が右側のドアを開けて車外に出てきたことを思い出した。運転していたのが彼女ではないことに、彼はそのとき初めて気付いた。
「お久し振りです。お元気そうで、嬉しかったです」