20日間のシンデレラ 最終話 私の本当の気持ち…
花 梨(語り)「そんな私はというともちろん優等生なんかではなく、教科書を見ると一分も経たない内に気分が悪くなるし……」
自分の机に座って教科書を開いている花梨。
しばらくして何かがショートしたように頭からぷしゅーっと煙を出し、ふらふらになりながら机にうな垂れる。
〇廊下(回想)
大慌てで廊下を駆け抜けていく花梨。
花 梨(語り)「朝は大好きなアニメをつい長く観すぎてしまって、一時間目が始まってる教室に忍び込んでは先生に怒られる事もよくあった」
〇教室(回想)
教室の後ろの扉が開いて花梨がこっそり入ってくる。
授業をしている教師に結局見つかり怒られている花梨。
花 梨(語り)「ただ友達はありがたい事に男女問わず多かったように思う」
花梨の机の周りには沢山の友達が集まっている。
わいわい楽しそうに話をしている花梨。
花 梨(語り)「けど正直な所、私は周りのみんなが思っている以上に、天然でわがままで、頑固で……そのくせ筋の通らない事が昔から嫌いで……」
〇花梨の部屋(回想)
花 梨(語り)「この頃より一年前……好きだった親戚のお兄ちゃんに花梨は女の子らしくないって言われたのがショックで、それから極力周りにだけでもそれらしく見えるように、まだ幼いながら気を使い出したのを今でも覚えてる」
活発な格好の花梨。
可愛らしいスカートに履き替えて大きな鏡の前に立ってみる。
首をかしげながらぽりぽりと頭をかいている花梨。
〇花梨の家 玄関前(回想)
赤いランドセルを持って、勢いよく走っていく。
段々、花梨の姿が小さくなっていく。
花 梨(語り)「けどまだ小学四年生の私はそんな事が完璧にできてしまうぐらい器用な訳もなく、気がつくといつの間にか自分を抑えきれずに突っ走ってしまっていた。 あれは学校からのある帰り道の事……」
〇駐車場(回想)
友達と別れて一人、家に向かって歩いている花梨。
普段あまり人気がない駐車場を横目に通っていると異様な光景が。
隅のほうでカッターシャツを着た中学生二人が、花梨と同じ制服の小学生を囲んでいる。
少し近づきながらその様子を不思議そうに見ている花梨。
中学生A 「お前が後ろから突っ込んできたからよーチャリンコがぶっ壊れたじゃねーか。 どうしてくれるんだよ? あんっ?」
眉間にしわを寄せて、その小学生をにらみつける中学生。
その側にはボロボロの自転車が。
怯えながら、話し始める小学生。
小学生 「こ……これは……僕がぶつかる前から壊れてたじゃないか……」
中学生A 「何だと? おい、疑ってんのかてめぇ!」
小学生の髪の毛をつかんで、自分の顔を小学生の顔のぎりぎりまで近づけてさらに脅しをかける。
中学生B 「ぐだぐだ言ってねーで何か出せよ。 おいっ、弁償しろ!」
今にも泣きそうになっている小学生。
目の色を変えて走り出す花梨。
二人の中学生をにらみつけて、
花 梨 「あんた達、何やってんのよ! その子を離しなさい!」
驚いた顔で花梨を見る中学生。
その拍子に小学生の髪の毛をつかんでいた手を離してしまう。
わんんわん泣きながら今だといわんばかりに走って逃げていく小学生。
中学生B 「あっ、てめぇ!」
小学生を逃がしてしまう中学生。
目の前に立ちはだかる花梨を見る。
ため息をつきながらこの上ないぐらい不機嫌な顔をして、
中学生A 「逃がしちまったじゃねーか……何だよてめぇ!」
花 梨 「小学生相手にかつあげするなんて、ほんと最低ね!」
言葉とは裏腹に良く見ると体を震わせている花梨。
それに気づく中学生。
中学生A 「あんっ? だから? 可愛そうにー震えてるじゃねーか。 どうした? ママのおっぱいでも欲しくなったのか? はっはっはっ」
馬鹿にするようにけらけら笑う中学生達。
目に涙を浮かべながらも、さらににらみ続ける花梨。
その表情を見て、笑うのを止め再び眉間にしわをよせる中学生。
中学生A 「ちょっと来いよ!」
乱暴に花梨の腕を引っ張る中学生。
必死に抵抗する。
花 梨 「やめろーっ! 離せっ!!」
泣きながら逃げようとする花梨。
反対側にはもう一人の中学生が立ちはだかり、花梨の体を押さえる。
悔しそうな表情で涙を流している花梨。
その瞬間、一人の中学生が声をあげる。
中学生A 「うっ……」
花梨の腕をつかんでいた手を急に離し、退く中学生。
何事かと視線を横に向ける花梨。
次第に驚いた表情に変わる。
そこには中学生の脇腹を蹴り終えた足を、タンッと地面に下ろす陸が。
怒り狂って大きな声をあげる。
陸 「女に手を上げる奴は、俺が許さねぇ!!」
体勢を立て直し冷めた目で陸に向かっていく中学生。
中学生 「おう、上等だ! 遊んでやるよ」
中学生に突き飛ばされ端にやられる花梨。
お互い叫びながら、中学生二人と陸の喧嘩が始まる。
体が震えてその場から動けずにいる花梨。
× × ×
傷まみれで宙を眺めるように倒れている陸。
陸に駆け寄って泣いている花梨。
体を揺すりながら、
花 梨 「……大丈夫?」
陸 「いてっ! おい止めてくれ……まじで死にそうになる……」
花 梨 「あっ! ごめん……」
思わず陸の体を揺すっていた手を引っ込める花梨。
沈黙。
花 梨 「あんた馬鹿だよ……相手は中学生だよ? 勝てるわけないじゃん……」
ゆっくり顔を花梨の方に向けて、
陸 「……お前もその中学生に立ち向かっていっただろ?」
花 梨 「あ……」
驚く花梨。
再び沈黙。
少し経って二人同時に笑い出す。
陸 「お前、笑かすなって……ははは……あーっ、傷が痛ぇ……」
笑いながら痛がっている陸。
同じように笑っている花梨。
花 梨 「はは……私達、馬鹿同士だね」
二人の笑い声が駐車場から聞こえる。
花 梨(語り)「その時、私は思った。 なーんだやっぱり怖くない、私の勘は当たってたんだって……」
〇小学校 げた箱(回想)
(五年四組)
と書かれたげた箱から、上靴を取り出し代わりに下靴を入れる花梨。
その後ろから、あくびをしながら陸がやってくる。
同じように五年四組のげた箱から上靴を取り出す。
ふと花梨と目が合う。
笑顔で挨拶をする二人。
花 梨(語り)「五年になって私達は同じクラスになった。 あの日以来、まるで昔からお互い知っていたんじゃないかってぐらい仲良くなって、私は陸に安心して素の自分を出せていたように思う……」
〇教室 休み時間(回想)
花 梨 「いくよ……せーのっ!」
合図の後、算数のテストの点を見せ合う花梨と陸。
花梨の点数。
(20点)
陸の点数。
(18点)
その場に立ち上がって大喜びをする花梨。
花 梨 「やったーー陸のあほーー罰ゲームとして毎回語尾に(そんな事よりも早く給食を食べたい)ってセリフをつける事! 分かった?」
作品名:20日間のシンデレラ 最終話 私の本当の気持ち… 作家名:雛森 奏