20日間のシンデレラ 最終話 私の本当の気持ち…
メインタイトル 『20日間のシンデレラ』
〇5年4組 教室(2000年 過去 陸が元の世界に戻って二日後)
こないだまで花梨が座っていた席を眺めている陸。
今はもう誰も座っておらず、机と椅子だけが物悲しくぽつんと置かれている。
はーっと大きなため息をつく陸。
黒板の前ではイダセンが国語の授業をしている。
窓の外を見つめる陸。
どこまでも続いていきそうな雲ひとつない青空。
どこかうわの空の陸。
陸 「(朝起きたらおかんが泣き付いていた。 何度も俺の名前を呼んで……何でも丸一日寝続けてたからもう死んでると思ったってったく気持ち悪いっての……けど不思議なんだよなー。 何だか頭がぼーっとするし、ここ最近の事なんか全く覚えてないし……自分でも馬鹿な事、言ってるって分かってる。 けど本当なんだ……まぁこんな事、説明しても誰も信じてくれないと思うけど……それに今は7月25日だっ
て? 学芸会は終わってるし花梨ももう転校しちゃってるじゃん……最悪だ……ほんと最悪だ……ったくのん気になにやってたんだよ俺は! …………結局……好きだって告白できなかったなぁ……」
再びため息をついてさらに表情が曇る。
陸 「(それにしても……何で警察が家にやってきたんだろ? 俺のこと犯罪者みたいな目で見ながら、何で部屋が散らかってるのかとか、何で火をつけたのかとか、そんなこと聞かれても知らねーっつうの。 あーっ、もう全く訳がわかんねぇ……それに俺が学芸会をぶっ壊したってどういう事だよ? そんな事あるわけねぇじゃん……あんなに練習したんだぞ……最初はみんで俺を騙してるんだと思ってた……けどいつまでたっても俺に対する態度は冷たいし、何か無視されてるっぽいし…………てかその話がもし本当だとしたら、俺は未だに花梨に勘違いされたままなのか?」
遠い目をする陸。
陸 「(…………戻りてぇな……花梨が転校したあの日に……ちゃんと笑顔で送り出してやりたかった……面と向かって好きだって事を言いたかった……突然未来のロボットがやってきてタイムマシンにでも乗せてくれれば、もう一度あの日に戻ってやり直せるのに……)」
遠くの景色を眺めてふっと一人笑う陸。
陸 「そんなことある訳ないか……」
〇東京 一人暮らしの花梨の家(2010年 同窓会二ヶ月前)
真っ暗な部屋。
かちっと音が鳴り部屋に明かりが点る。
花瓶に入った花が綺麗に飾られている。
どさっと床には鞄を、小さめのテーブルにはコンビニの袋に入ったパンと牛乳を置く花梨。
そのままベッドにばふっと倒れこむ。
遠くで電車の音が聞こえる。
長めの髪が乱れる。
ゆっくりと顔を横に向ける花梨。
ベッドの隅に追いやられたテディベアがこっちを見ている。
ぼーっと視線をそちらに向けて、テディベアの頭をぽんぽん触っている花梨。
急に何かを思い出したかのように起き上がる。
部屋の隅にある本棚の前に立ち何かを探している様子。
一冊の本に手をかける。
本のタイトル。
(フラワーデザイナー資格検定テキスト)
その本を取り出そうとした時、あるものの存在に気づく花梨。
花 梨 「あ……」
視線の先には少し古びてしまった五年四組の文集が。
手に取った本を元に戻し、代わりに文集を取り出す花梨。
ベッドを背にもたれ掛かるようにその場に座る。
テーブルに置いてあるコンビニの袋からがさごそと牛乳を取り出す。
ストローをさしてちゅーっと牛乳を飲む花梨。
文集をぺらぺらとめくっている。
懐かしさに浸るように表情が緩む。
ふとページをめくる手が止まる。
次第にどこか寂しそうな表情になっていく花梨。
開かれているのは陸の自己紹介のページ。
生年月日や将来の夢、先生に一言などが書かれている。
都会の真ん中にある、花梨一人しかいない部屋。
その部屋で何度も何度も同じページを眺めている花梨。
花 梨(語り) 「私は陸の事が好きだった……」
サブタイトル 『最終話 私の本当の気持ち……』
〇小学校前(回想)
花 梨(語り) 「初めて陸の事を知ったのは、まだ桜の花びらが舞う小学四年生の春……」
班登校をしている一組のグループ。
先頭は班長を任されている短髪で活発そうな六年の男子生徒。
花梨がその後ろに続き、隣のクラスの夏美、さらに後ろに二年の男子二人、一年の女子
一人、計六人がたて一列になって歩いている。
歩きながら桜の木を眺めている花梨。
きらきらと木漏れ日が差し込んでいる。
ひらりと花びらが一枚舞って落ちてくる。
それを興味心身に見ながら歩いている花梨。
前を見ていなかった為、どんっと班長のランドセルに後ろからぶつかる。
班 長 「おっ、大丈夫か? 池田」
痛そうに鼻を押さえながら、
花 梨 「ごめん、班長」
へへっと笑い、タメ口で謝る花梨。
左側には小学校の運動場が見え、朝から元気に遊んでいる生徒達の声が聞こえる。
班長を先頭に角を曲がって校門にさしかかろうとした時、当然後ろから大きな声が聞こえてくる。
声 「こらーっ!」
その声の後、一人の男子生徒が花梨たちの側をものすごい勢いで駆け抜けていく。
後ろを振り返って挑発するように、
男子生徒 「へへーん、誰が班登校なんかするかよ!」
一気に校内に入っていく。
少し遅れて後ろからもう一人、男子生徒がやってくる。
制服には六年生の証明である名札が縫い付けられている。
激しく息を乱しながら、
六年の男子生徒 「ったく……あの馬鹿」
その様子を見て同じ学年の班長がけらけらと笑う。
班 長 「またあいつか? 毎朝お前も大変だな」
六年の男子生徒 「本当だよ。 お前の班は大人しい子達ばっかで羨ましいな。 どうだ? 一日だけ俺と登校班交換しないか?」
班 長 「そんな事できないだろ。 ってか俺にあいつの世話は無理だ」
隣に並んで話をしている上級生。
きょとんとしている花梨。
後ろにいる夏美に話しかける。
花 梨 「今のって同級生だよね?」
驚いた顔をする夏美。
夏 美 「えっ、花梨知らないの? 出雲陸だよ。 問題児だって有名じゃん。 男子も女子もみんな怖がってあんまり近づこうとしないんだから」
花 梨 「ふーん」
再び歩き出す。
〇廊下
花 梨(語り)「陸は校内でとびっきりの有名人だった。 それもよくない噂で……」
廊下を全速力で駆け抜けていく陸。
花 梨(語り)「遅刻、早退は当たり前、上級生とでも平気で喧嘩をするし、万引きで親を呼び出された事も何度もあるらしい。 そもそもこんなに騒ぎを起こしていたのに、何で今まで私は陸を知らなかったんだろうって思う」
無邪気な表情の陸。
花 梨(語り)「けどみんなが言うほど悪い奴じゃない。 私は根拠もないのにはじめて見た陸に対して、そんな確信にも似た感情を抱いていた……」
そのまま教室に入っていく陸。
〇教室(回想)
〇5年4組 教室(2000年 過去 陸が元の世界に戻って二日後)
こないだまで花梨が座っていた席を眺めている陸。
今はもう誰も座っておらず、机と椅子だけが物悲しくぽつんと置かれている。
はーっと大きなため息をつく陸。
黒板の前ではイダセンが国語の授業をしている。
窓の外を見つめる陸。
どこまでも続いていきそうな雲ひとつない青空。
どこかうわの空の陸。
陸 「(朝起きたらおかんが泣き付いていた。 何度も俺の名前を呼んで……何でも丸一日寝続けてたからもう死んでると思ったってったく気持ち悪いっての……けど不思議なんだよなー。 何だか頭がぼーっとするし、ここ最近の事なんか全く覚えてないし……自分でも馬鹿な事、言ってるって分かってる。 けど本当なんだ……まぁこんな事、説明しても誰も信じてくれないと思うけど……それに今は7月25日だっ
て? 学芸会は終わってるし花梨ももう転校しちゃってるじゃん……最悪だ……ほんと最悪だ……ったくのん気になにやってたんだよ俺は! …………結局……好きだって告白できなかったなぁ……」
再びため息をついてさらに表情が曇る。
陸 「(それにしても……何で警察が家にやってきたんだろ? 俺のこと犯罪者みたいな目で見ながら、何で部屋が散らかってるのかとか、何で火をつけたのかとか、そんなこと聞かれても知らねーっつうの。 あーっ、もう全く訳がわかんねぇ……それに俺が学芸会をぶっ壊したってどういう事だよ? そんな事あるわけねぇじゃん……あんなに練習したんだぞ……最初はみんで俺を騙してるんだと思ってた……けどいつまでたっても俺に対する態度は冷たいし、何か無視されてるっぽいし…………てかその話がもし本当だとしたら、俺は未だに花梨に勘違いされたままなのか?」
遠い目をする陸。
陸 「(…………戻りてぇな……花梨が転校したあの日に……ちゃんと笑顔で送り出してやりたかった……面と向かって好きだって事を言いたかった……突然未来のロボットがやってきてタイムマシンにでも乗せてくれれば、もう一度あの日に戻ってやり直せるのに……)」
遠くの景色を眺めてふっと一人笑う陸。
陸 「そんなことある訳ないか……」
〇東京 一人暮らしの花梨の家(2010年 同窓会二ヶ月前)
真っ暗な部屋。
かちっと音が鳴り部屋に明かりが点る。
花瓶に入った花が綺麗に飾られている。
どさっと床には鞄を、小さめのテーブルにはコンビニの袋に入ったパンと牛乳を置く花梨。
そのままベッドにばふっと倒れこむ。
遠くで電車の音が聞こえる。
長めの髪が乱れる。
ゆっくりと顔を横に向ける花梨。
ベッドの隅に追いやられたテディベアがこっちを見ている。
ぼーっと視線をそちらに向けて、テディベアの頭をぽんぽん触っている花梨。
急に何かを思い出したかのように起き上がる。
部屋の隅にある本棚の前に立ち何かを探している様子。
一冊の本に手をかける。
本のタイトル。
(フラワーデザイナー資格検定テキスト)
その本を取り出そうとした時、あるものの存在に気づく花梨。
花 梨 「あ……」
視線の先には少し古びてしまった五年四組の文集が。
手に取った本を元に戻し、代わりに文集を取り出す花梨。
ベッドを背にもたれ掛かるようにその場に座る。
テーブルに置いてあるコンビニの袋からがさごそと牛乳を取り出す。
ストローをさしてちゅーっと牛乳を飲む花梨。
文集をぺらぺらとめくっている。
懐かしさに浸るように表情が緩む。
ふとページをめくる手が止まる。
次第にどこか寂しそうな表情になっていく花梨。
開かれているのは陸の自己紹介のページ。
生年月日や将来の夢、先生に一言などが書かれている。
都会の真ん中にある、花梨一人しかいない部屋。
その部屋で何度も何度も同じページを眺めている花梨。
花 梨(語り) 「私は陸の事が好きだった……」
サブタイトル 『最終話 私の本当の気持ち……』
〇小学校前(回想)
花 梨(語り) 「初めて陸の事を知ったのは、まだ桜の花びらが舞う小学四年生の春……」
班登校をしている一組のグループ。
先頭は班長を任されている短髪で活発そうな六年の男子生徒。
花梨がその後ろに続き、隣のクラスの夏美、さらに後ろに二年の男子二人、一年の女子
一人、計六人がたて一列になって歩いている。
歩きながら桜の木を眺めている花梨。
きらきらと木漏れ日が差し込んでいる。
ひらりと花びらが一枚舞って落ちてくる。
それを興味心身に見ながら歩いている花梨。
前を見ていなかった為、どんっと班長のランドセルに後ろからぶつかる。
班 長 「おっ、大丈夫か? 池田」
痛そうに鼻を押さえながら、
花 梨 「ごめん、班長」
へへっと笑い、タメ口で謝る花梨。
左側には小学校の運動場が見え、朝から元気に遊んでいる生徒達の声が聞こえる。
班長を先頭に角を曲がって校門にさしかかろうとした時、当然後ろから大きな声が聞こえてくる。
声 「こらーっ!」
その声の後、一人の男子生徒が花梨たちの側をものすごい勢いで駆け抜けていく。
後ろを振り返って挑発するように、
男子生徒 「へへーん、誰が班登校なんかするかよ!」
一気に校内に入っていく。
少し遅れて後ろからもう一人、男子生徒がやってくる。
制服には六年生の証明である名札が縫い付けられている。
激しく息を乱しながら、
六年の男子生徒 「ったく……あの馬鹿」
その様子を見て同じ学年の班長がけらけらと笑う。
班 長 「またあいつか? 毎朝お前も大変だな」
六年の男子生徒 「本当だよ。 お前の班は大人しい子達ばっかで羨ましいな。 どうだ? 一日だけ俺と登校班交換しないか?」
班 長 「そんな事できないだろ。 ってか俺にあいつの世話は無理だ」
隣に並んで話をしている上級生。
きょとんとしている花梨。
後ろにいる夏美に話しかける。
花 梨 「今のって同級生だよね?」
驚いた顔をする夏美。
夏 美 「えっ、花梨知らないの? 出雲陸だよ。 問題児だって有名じゃん。 男子も女子もみんな怖がってあんまり近づこうとしないんだから」
花 梨 「ふーん」
再び歩き出す。
〇廊下
花 梨(語り)「陸は校内でとびっきりの有名人だった。 それもよくない噂で……」
廊下を全速力で駆け抜けていく陸。
花 梨(語り)「遅刻、早退は当たり前、上級生とでも平気で喧嘩をするし、万引きで親を呼び出された事も何度もあるらしい。 そもそもこんなに騒ぎを起こしていたのに、何で今まで私は陸を知らなかったんだろうって思う」
無邪気な表情の陸。
花 梨(語り)「けどみんなが言うほど悪い奴じゃない。 私は根拠もないのにはじめて見た陸に対して、そんな確信にも似た感情を抱いていた……」
そのまま教室に入っていく陸。
〇教室(回想)
作品名:20日間のシンデレラ 最終話 私の本当の気持ち… 作家名:雛森 奏