もう一つの部屋
「あらあ、お世辞を云うひとだったのね。そういうことはもっと前から聞きたかったわ」
「お世辞じゃありませんけど……」
「いいんです。外見のことより、ほかのことをお話しましょ」
「……前から伺いたいと思っていたことがあります」
「なあに、前からって?」
「……夜中に水割りをお飲みになってましたね。そんなことはありませんか?」
「ええ。ときどきね……わたし……懺悔します」
「えっ?懺悔?」
「そう。わたしね、何度かあなたのお部屋を無断で訪問していたの」
「じゃあ、やっぱりあれはドアだったと?……」
「そう。わたしのお部屋の壁には立派なドアがあるのよ」
「そうでしたか……今度、不在じゃないときに訪問されたいです」
「高槻さん、うちで本を買ってくださっているでしょう。わたし、今度はいつお会いできるかなぁ、なんていつも思っていたんです。じゃあ、明日の夜にでも……」