小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

有刺鉄線

INDEX|3ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

vol.3 羨望



藤崎のいる世界から圭佑の姿は消えた。・・・当たり前だな、と藤崎は思っている。スポーツをやってるのが似合う普通の子どもだった。何かの気まぐれで迷い込んできたのが、目が覚めたんだろう。
藤崎はあの子どもにこだわる自分がおかしかった。
自分の趣味としてもあの世代にはさほど興味はない。自分がその年代だった時期でなければ15歳の少年にちょっかいを出したことはなかった。なにかが藤崎の心の中に入り込んでスイッチを押したのだ。
初めて見たその時から、どういうわけか彼が気になって仕方なかった。それが、保護者的なものか、恋愛感情なのか、それすらも判らない。ただあの子どもに恋愛などしてはいけないと自分でブレーキをかけようとした。なのにそのことが悲しく思えた。
 
でも、もう悩むこともない。
そう諦めることは安堵でもあり、未練でもあった。
馬鹿馬鹿しい。後は時間が忘れさせてくれるだろう。藤崎は己の仕事に没頭しようと決めた。


三度目に圭佑に出会ったのは美術館だった。藤崎は絵を描きはしないが絵画や彫刻など美術品を見るのを隠れた趣味にしている。フェルメールのチケットを手に入れた。混雑の中で絵画を見るのは遠慮したいが、ことフェルメールと聞けば行かないわけにもいかなかった。
想像通りの雑踏の中で目的のフェルメールを鑑賞し、一息つこうとロビーに向かった。溢れる人混みの中でどういうわけか藤崎は圭佑を見つけ出した。
最初は間違いかと思った。数ヶ月前の記憶の中の彼より身長が伸び、身体の厚みも増しているように思えたのだ。だが、横を向いて笑っている顔が確かに圭佑だった。その視線の先には彼より頭ひとつほど背の高い少年が立って何か話しかけている。二人は自動販売機で珈琲を買う際に砂糖やミルクをどう入れるかでもめているようだった。ふざけあってボタンを押しては笑っている様を見て藤崎の胸の中がちりちりと痛んだ。何の迷いもなく互いにもたれたり叩いたりしあえる若者たちに羨望を覚えた。圭佑は夜の店で会った彼とはまったく違うようであり、やはりあの子だと思える惹きつけられる魅力は変わらなかった。
藤崎は人混みにまぎれて彼等に近づいてみようとした。少しでも圭佑がどんな風に話しているのか、聞きたかった。

だが、団体客の流れが足を封じ、人にもまれているうちに藤崎は二人の少年の行方を見失ってしまった。


作品名:有刺鉄線 作家名:がお