小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

有刺鉄線

INDEX|2ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

vol.2 蘇生



藤崎が圭佑と再び会ったのはそれから2週間ほど経ったクラブ「黒蘭」のある一室だった。

店の事務室で藤崎は帳簿の確認をしていた。そこへ一室を借り切っていた客からコールがあった。受話器を取ったスタッフが顔色を失う。受話器の向こうで遊びに興じていた相手が呼吸をしていないと騒いでいるのだ。
藤崎が急いで駆けつけることになった。豪奢な装飾の部屋で金持ちの息子らしい肥満した男が蒼白になり、バスローブ姿で立ちすくんでいる。床の上には痩身の少年が裸体で首に縄を掛けられ横たわっていた。細長い手脚はだらりと投げ出されている。藤崎はすでにこの店専属の医師に連絡を取っていた。極秘で診察を受ける為だ。急いで少年に近寄り、その身体を仰向ける。
・・・圭佑、といったあの少年だった。喉には縄が食い込み息をしていない。藤崎は急いで縄を外し、人工呼吸を始めた。だめだ。死なせてはいけない。藤崎は何度も息を吹き込んだ。自身の気が遠くなりそうに思えた頃、医師が駆けつけた。圭佑の呼吸が蘇生したことを確認した。
藤崎は客にここはSMクラブではないと念を押し、請求書を渡すことになる、と告げた。肥満男は安堵のため息をつき、請求を飲んだ。
その後、圭佑を事務室横の仮眠室に運んだ。藤崎は圭佑をおぶさり、部屋のソファへと寝かせた。まだ顔や体つきが幼く思える。ソファに横たわる圭佑の肢体に欲望が走ったが、藤崎は立ち上がり、毛布を探しに行った。
圭佑の持ち物からは自宅への連絡をつけられるようなものは見当たらなかった。・・・どちらにしても本人は知られたくはないだろうが。藤崎はそのまま圭佑を休ませることにした。心の隅でこの少年との再会だけでなく、すぐ側で触れられることにほくそ笑んでいる自分を見つけると藤崎は自分を憐れんだ。自分は、どこかでこの少年から好かれることはない、と怖れているのかもしれなかった。







「何故あんなことをしたんだ?」
小一時間ほど経ち、ソファで圭佑が目覚めると藤崎は訊ねた。「まだ子どもの癖に。金と命を引き換えにできると思ってるのか」
「金の為じゃないよ」圭佑はまだ口を開くのが億劫そうだ。
「そうか。おまえの財布に10万入ってるのを見たぞ」
圭佑は肩をすくめた。「知らないよ。勝手にあいつが入れたんだろ。ただ試したかったんだよ」
「試したい?何を?」
質問に答えるのに飽きて煩そうに答える。「さあ。これをやったら死ねるかな、ということかな」
「ふん」藤崎は鼻を鳴らしてマグカップを差し出した。「さあ、飲め。おまえみたいな小僧が死ぬには半世紀ほど早い」
「なんだこれ?」
「蜂蜜入りのホットミルクだ」
「蜂蜜入りのホットミルク・・・」圭佑は馬鹿にしたように繰り返し、その暖かい白い液体を飲み込んだ。「甘いや」
そして藤崎を見上げて笑った。


作品名:有刺鉄線 作家名:がお