有刺鉄線
vol.12 犠牲
藤崎は自分を責めた。
圭佑が次第に暗黒街に入り込んでしまったのは自分のせいだった。
追い出すことは簡単だったはずなのに、それをしなかった。
圭佑がクスリに手を出し、藤崎以外の危険な連中とも次第につき合いだしているのに気づいても
見ぬふりをしていた。
圭佑が人を殺した。
彼の思い人である桐野行哉を穢したことへの怒りだった。
それをもみ消す為に藤崎は自分の肉体を犠牲にした。
そのことはどうでもいい、と思う。ただ、圭佑の精神がすでにもうどうしようもない域にまで達していることに
気づきながら目を伏せていた己に怒った。
この始末はつけねばならない。藤崎は苦い酒を飲み込んだ。
初めて抱いた圭佑の身体は藤崎を震えさせた。ずっとそうしたいと思いながら打ち消してきた気持ちを
こういう形で表したくはなかった。
藤崎に抱かれながら圭佑が彼を憎み呪っていることを思うと不甲斐なかった。
ずっと慈しみ保護していたいだけだったはずだ。だが、藤崎の欲望はその思いを裏切っていた。
藤崎によって、屈辱に満ちた苦痛と言葉を浴びせられた圭佑は美しいしなやかな身体を弓なりに反らせ、悶え、痙攣した。泣き叫び、抗う圭佑を苛む手を止め、許しを請いたかった。鬼と化して圭佑を抱いた。彼の口から呼ばれるのは行哉の名前だけ。その名を聞く度に殴打したが圭佑はやめなかった。
何故そこまであの男だけを思っているんだ。問いただす勇気はなかった。そんなことは無意味だと判っていた。
せめて・・・圭佑が二度と自分の前に現れることがないよう・・・それだけを願った。