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アイラブ桐生 9~11

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 「あれ、ほら・・・・民宿の看板。」



 なるほど、レイコが指差す先には、
電柱に取りつけられた、小さな民宿の古ぼけた看板が有りました。
たしかにそれは民宿を示す看板ですが、見るからに古いもので
その存在自体さえ危ぶまれました。


 「泊りたいわねぇ・・・」

 もう、レイコは完全にそのつもりでいるようです。
この景色に辿りついたときからレイコは、なぜか北陸を代表するような、
そんな気配が濃厚に漂っている、まりにも素朴なここの入り江の景観にすっかりと、
心を奪われていました。
しかし看板だけでは、どこにあるのか解りません。



 「有るのかなぁ。」


 そう思いながら、眼下の入り江沿いに視線を流していくと・・・・
ありました!。
看板とおなじように、すっかり古びて錆びきってしまった建物が。
あまりのも、出来すぎた話だろう・・
そう思いながらも、とりあえず泊まりの交渉へ出かけました。


 今は、もう営業はしていないという話です(やっぱり)
しかし、予想に反して「家族と同じ食事でも良ければ、泊めてもいい」
という嬉しい返事が返ってきました。
はるばると群馬県の方から飛び込みで来るなんて・・と
向こうのほうが、逆に恐縮しきりです。



 一休みができるなら助かるな、と思いきゃ・・休むどころかレイコは、
ふたりの子供たちといきなり表に出て、遊び始めてしまいました。
夏休みで、里帰りをしている、お孫さんの姉妹です。
そうだ、レイコは、保母さんになるのが夢だった・・・



 結局、子供たちとは夕暮れ近くまで遊びました。
すこし昼寝などしようと思う間もなく、はしゃぐレイコにせかされて
私まで、子供たちと延々と砂浜で過ごす羽目になってしまいました。



 夕食は、老夫婦と二人のお孫さん、
その真ん中に座ったレイコと、少し離れた座った私の6人です。
夜になると民宿では、窓も障子もすべてを開け放ちます。
寝室には、すでに蚊帳も吊られています。
うだるようだった昼間の暑さもどこかに消えて、
吹きこんでくる潮風は涼しいどころか、時間と共に肌寒いほどになりました。
この地域では、交番が必要ないというくらい治安が良いために、
誰も家にはカギなどは掛けることなく、あたりまえのように暮らしています。




 (泥棒は、いないんだ・・)



 びっくりしたのは、仏壇の大きさでした。
仏間と呼ばれていて、全部を開けると部屋いっぱいの大きさになります。
外観の造りも内装も実に、贅沢を極めています。
家一軒分よりもお金をかけ、贅を尽くして祖先を敬う現れです。
すごいですね~などと、見惚れているうちに、いつの間にかウトウトと、
居眠りなどが出てきました。



 口当たりの良い日本酒が、
寝不足の身体に、あっというまに酔いと眠気を誘いました。
ほとんど食事にも手を付けないうちに、落ち込むような眠気に襲われて
ついに我慢ができなくなり、ちょっぴり不満そうなレイコを置き去りにして、
それじゃぁお先に・・・・
と言うのと同時に、深い眠りに落ちてしまいました。


 
 すこし期待はあったものの、能登半への到着の
記念すべき最初の夜は、完璧に熟睡・爆睡の夜になってしまいました。





 ・追伸です
湾で見つけたやぐらは、伝統漁法の「ぼら漁」です。
四つ手に組んだ網を海中に仕掛け、魚が入った瞬間にすかさず
(人力で)すくいあげるという長い伝統をもつもので、かつ原始的な漁法です。
ぼらは、珍味「からすみ」の原料で、たいへん高価な一品です。




(11)へつづく

作品名:アイラブ桐生 9~11 作家名:落合順平