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アイラブ桐生 9~11

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 民家の隙間をすり抜けながら、やっとの思いで辿りついたのは
ちょうど朝市通りの真ん中あたりでした。
それほど広くない道の両脇に、隙間も見せずに地元の野菜と魚を中心にした
小さな露店がいくつも仲良くならんでいます。
そのほとんどが、地面に無造作に商品を並べただけの露天商です。
すこぶる素朴ともいえる情景で、普段着の食糧市場そのものという風情でした。


手拭いでほっかぶりをした、
しわだらけのおばあちゃんが笑顔を見せています。
目を細めながら能登なまりそのままで、しきりになにやら喋っていました。
こんな光景と雰囲気を、どこかで見た覚えがあります。
どこだろうと考えていたら・・
同級生で、芸術家志望の西口くんの顔が、フイに頭の中に現れました。
・・・そうだ、あいつが好んで書いた渋い色調の画の中にも、
たしか、こんな婆さんたちが、たくさん登場していました。




 うしろから、レイコに頭をこずかれました。




 「また、遠くをみている!」

 振り返った私の耳もとで、レイコがささやきます。

 「おにいさんはどこから来たのと 聞いてるん・・だって。」




 輪島塗りのお店の前に立つ、人の良さそうな女将さんを指さしました。
その女将さんが、目ざとく近よってきます。
背後から、私とレイコの肩へ両手を置きました。



 「とても綺麗で可愛いいお嫁さんだって、褒めているのよ。」

 ポンポンと、私とレイコの肩を軽く交互に叩きます。
それだけ言うとまたにっこりとほほ笑んでから、
声を出して笑いはじめました。



 「群馬からです!」 レイコが元気に答えます。
「おやまぁ、ずいぶんと遠いところから・・・・ええ~と、どの辺りでしたかしら、
たしか関東ですねぇ、関東ねぇ・・・・たしか・・ええとぉ・」
実にあやふやなうちに、女将は詮索を打ち切ってしまいます。
まあいいでしょうと、勝手な相槌をうってから、
また賑やかに話し始めます。



 「輪島の朝市というのは、
 女たち同士の暮らしをかけた、女の熾烈なたたかいなの。
 家で待つ男や子供たちを養うために、女は朝早くから働きに出掛けて来て
 こうして朝市で物を売るの。、
 いくら旨い事言われても、言い値で買っては駄目ですよ。
 此処での流儀は、”値切り”です。
 値段なんてものは、交渉次第でどうにでもなるの。
 朝からそんなかけひきを楽しむことも、また輪島流の朝市です。。
 気をつけなさい・・・ここのおばあちゃんたちは、とっても商売上手だから。
 あら・・・そういえば、
 あんた、よく見ると、格別に別嬪だねぇ。」





 と、またまた元気に笑いました。


作品名:アイラブ桐生 9~11 作家名:落合順平