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アイラブ桐生 9~11

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 ようやく到着した輪島の朝市での散策は、
わずか30分ほどで終わりました。
採れたての野菜や魚介類を売っている朝市は、観光用というよりも
日々の暮らしの食をまかなうために、
路上で繰り広げられる小さな日常市です。
レイコは先ほどの輪島塗りの女将さんの所で、
さらにしばらく話しこんでいます。
お土産代りに、最後に何か小物を買ったようでした。


 はるばる12時間以上もかけて走ってきたというのに
わずか30分ほどの滞在では短かすぎるような気もしたが、どうする?と聞くと
せっかくだから、金沢まで戻ろうという話になりました。



 戻る? ・・・金沢は群馬への帰り道とは、
まったくの逆方向にあたります。
それはまだ、さらに旅は先へ進むということを意味しました。
しかし当初の目標は無事に達成したために、
もう先を急ぐ必要はなくなりました。

レイコものんびりしたまま、
車窓を流れる景色にぼんやりとしています。
たぶんこのまま金沢まで、のんびりペースのドライブが楽しめる・・・・
そう決め込んでいたら、またまたレイコが、何かを見つけてしまいした。



 「渚を・・・車で走れるって・・へぇ~  
 よし、行こうッ。」




 能登半島の西海岸線に有る、千里浜なぎさドライブウェイです。
日本で唯一、一般車両やバスなどがその波打ち際を、約8㌔にもわたって
走行することができるという、渚の観光用道路です。
その看板が、レイコの目にはとまりました。



 なぎさドライブウェイでは、
極めてきめの細かい砂が、砂浜全体を敷き詰めています。
この砂の高密度が、重量のある車両物の走行を可能にしていました。
走行する車たちによって造られた何本もの轍が、延々と続く薄茶色の海岸です。

 展望台にもなっているドライブインの屋上から
はるかに続いていくそんな、地上線と水平線の様子をながめていたら、
下の方からレイコの声が聞こえてきました。
「降りて来い」と呼んでいます。
その手元には、いつの間に買ったのか、お土産袋がふたつ握られています。
そのまま車まで、急いで戻れと言っているように聞こえました。
もう行くのかと思いつつ、車まで戻ってくると・・・・



 「はい、綺麗なお嫁さんからの、初めての貢物。」


 と、袋のひとつを手渡してくれました。
もう一つは自ら封を切り、中から原色でど派手な
アロハシャツを取りだしました。
「ちょっと待て、」という暇さえありません。
今度こそ車内でのストリップがはじまりそうな気配です。
止める時間もないままに、レイコは今朝いちばんで着替えたばかりの
シャツをあっというまに脱ぎ捨ててしまいます。
ブラジャーまで取り外してしまい、
人目も気にせずに素っ裸になってしまいました。
臆する様子も見せないレイコは、平然と鼻歌などを口ずさみながら、
買ってきたばかりのアロハに着替えています。



 幸い周囲に人影はなく、やれやれと一息つきながら、
なをもあっけにとられて、その様子を眺めていると、
「お揃いだから、君も着て。」
と、すました顔で命令をされてしまいました。

ハイハイ(さからうとまずい空気になりそうだ)・・解りましたと
着替えてから、これでいいですか、と、レイコを振り返りました。
そこでまた、度肝をぬかれてしまいます。
真赤な口紅に、まっ黒のサングラスと派手なアロハシャツに着替えて、
短い髪をさらりと掻きあげながら、すました顔をしている
レイコがそこにいました。



 悠然と、たばこに火をつけます・・・・
フ~とあえてゆっくりと、煙を天井に向かって噴きだしました。
意味ありそうに流し目で私を見てから、右手の指を一本だけ立ました。
ことさら強調するように、私の目の前に指をかざしてから、真っ赤な唇に向かって
そ~と押し当てる仕草を見せました。
そういえば、昨日の口紅はピンクでした。
サングラスを少しだけ下にひきおろして、長いまつげを見せたレイコは、
ゆっくりと、悩殺ポーズでウインクをして見せました。




 「準備は万端。
 ここから、これからが、この旅の佳境です。
 ねぇあんた。私の言っていることの意味を、ちゃんとわかってる?
 爆睡してたんだのもの、覚えているはずはないわよね。
 この口紅を使うのは、これで二度目なのよ。
 二度目は、たった今使ったわ。
 一度目は、昨夜。あなたのための、使ったの。
 あなたのために、初めてのルージュを塗ったのに・・・
 寝ちゃうんだもの。まぁ、其れも仕方ないか、
 まだ時間もたっぷりと残っていることだし、
 未来の花嫁さんを乗せて・・・
 さあ行こうぜ、二人を待ってる金沢へ!。」





アイラブ・桐生


第三章、その3・(完)
作品名:アイラブ桐生 9~11 作家名:落合順平