アイラブ桐生 9~11
妹のほうは、レイコの首筋にしっかりとかじりついています。
頬をしっかりと寄せたまま、満面の笑みを見せながらレイコの胸で
無邪気に遊んでいます。
上の子は私の顔を見た瞬間にレイコの腰へ、顔だけ見せて隠れてしまいました。
まるで子供のお母さんそのものだ、と思いながら
「おはよう」と声をかけると、上の子がやっとレイコの腰から出てきました。
摘んできたばかりの浜辺の花を私に、はにかみながらも
プレゼントをしてくれました。
結婚すると毎朝がこんな感じになるのかな・・それも悪くないなどと、
寝ぼけた頭で、ふと余計なことを考えてしまいました。
朝食を済ませ、何度もお礼を言ってから、
教えられた通りに、半島を横切り西海岸へと向かう山道へ向かいました。
子供たちは元気に道路まで飛び出して、車が見えなくなるまで
精一杯に手を振りながら笑顔で見送ってくれました。
小供たちが涙も見せずに、レイコと笑顔で別れてくれたことに、
内心ほっとしたと素直に白状をすると・・
「甘いなぁ、民宿で育ったこどもたちなのよ。
親しくなるのも早いけど、人と別れることにも慣れてるの。
別れたら他人で、みんな別の人ょ」
なるほど、女は、別れたら別の人か、
そうだよな・・・よくわかりましたと、妙に納得をしました。
小1時間ほどの山道を走り終えると教えられた通り、
下りに入った斜面の先に、
大きくひろがる日本海が見えてきました。
目の前に横たわるのは、はるか大陸まで続く外洋です。
黒々とした海面のあちこちには、白いうさぎと呼ばれる
三角の波が光っていました。
30分ほど海沿いを走ると、ようやく輪島市の看板と遭遇をしました。
街の入り口の少しだけ手前で、運河に架かった小さな橋を渡ります。
渡り切ったすぐ先で、駐車場の案内看板を見つけました。
標識通りに進んで行くと海岸沿いに造られた、朝市専用の駐車場が現れます。
充分な広さをみせる、未舗装の駐車場です。
朝早いせいか、意外なことに、数台の車が点々と停まっているだけで、
あとは寂しいだけの空間が広がっていました。
しかし朝市の場所が定かではありません。
駐車場から見えるのは、立ちはだかるような民家の密集だけです。
潮風に晒されて、木目がやせ始めた板壁ばかりがやたらと目につく景色です。
そんな屋並みを歩いていくと、人が一人やっと歩くそうな路地が現れました。
「よしなさいよ」と引き止めるレイコを無理やりに従えて、
その路地へ入り込んでしまいます。
何度か突き当たりながら適当に歩いていたら、突然前方が開けました。
作品名:アイラブ桐生 9~11 作家名:落合順平