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携帯電話

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これは一大事。
たとえどんな事態にあっても、これだけは放置しておくわけにはいかない。
知らんぷりを決め込んだら、後の仕打ちが恐い。
お仕置きに、家に入れてもらえないか、それとも丸刈りにされる可能性がある。

「もしもし、どうしたの?」
高見沢は普段と変わらない風に聞いてみた。
 
「アナタ、待っているのよ、いつ帰って来るのよ?」
夏子がどうも不機嫌そう。
高見沢はその時、「しまった!」と思い出した。
今度の休暇に出掛ける温泉旅行。
今夜はその計画を夏子と練る約束をしていた。
高見沢はどう返事をして良いものかと、まさに思案投げ首状態。

「あっ、ゴメン、今みんなと居酒屋に来てるんだよ。もうすぐ帰るから、ちょっとだけ待っておいて」と返した。

すると即座に、夏子の要求が飛び出してくる。
「ホント?  じゃあ、視覚情報を送信してくれる」

高見沢は急に深刻な表情を滲ませて、
「これは困ったぞ・・・ しかし、逆らえば後がメッチャ恐いよなあ」と、ただただ呟く。
そして、あまりクラブっぽくない箇所をケイタイ撮りして、渋々送信した。

妻の夏子は元々写真を細かく観察し、事実をこってりと解析する生まれながらの高い能力を備え持っている。


作品名:携帯電話 作家名:鮎風 遊