携帯電話
そして、男の独り言が口をついて出てくる。
「なんだよ、この次世代型・第六感機能付きケイタイっていうやつは、
ちっとも男の人生を楽しくしてくれないよ、邪魔ばっかりしよって。
こんなもの鴨川に放り投げて、捨ててしまおうか」
高見沢は、夏子との約束を忘れてしまっていたことは大変反省している。
しかし、それはよくある男の出来事。
アルコールで舞い上がって、日々生活の記憶がちょっと消え失せてしまった小さな事故。
そして単に勢いが付き過ぎて、野郎どもとクラブへ雪崩れ込んだだけの話しなのだ。
そんな他愛もない行動を、
次世代型・第六巻機能付き携帯電話は・・・・・・浮気下心ありと。
確かに、中(あた)らずとも雖(いえど)も遠からずのところもあるが、
それをわざわざ結論付けて妻へ忠告してしまう。
こんな出しゃばりケイタイがもし存在しなければ、こんなにも妻に叱られずに済んだはず。
「なんだよ、このケイタイ、揉め事を無理矢理に作りやがって」
高見沢は大変御不満。
そして、しみじみと独り呟くのだ。
「携帯電話も通話だけしかできなかった頃は、情報も可愛らしくって、
ホント平和で・・・風情も情緒もあって良かったよなあ」