携帯電話
「そんなこと、できないよ! 隣のお客さんの・・・ハナちゃんに失礼だろ」
言ってはならない名前が、高見沢の口からぽろりと滑り出てしまったのだ。
夏子は、さすが百戦錬磨の主婦。
それを外さない。
「えっ、アナタ、その娘の名前知ってるの・・・・・・ふうん、そうなの」
夏子とのケイタイ会話に、重い沈黙が・・・・・・。
そして、一言の叫びがミサイルのごとく飛んできた。
「早く触りなさい!」
高見沢は妻に指示されるままに、
ハナちゃんが友人達と話し込んでいる隙を狙って、
ケイタイに付いている触覚センサーで、色白で剥き出しになっている二の腕辺りをさあっと触れてみた。
そしてその情報を、夏子に送らざるを得なかったのだ。
「アナタ、その女、お肌はザラザラの鮫肌よ。
そんな安物のスキンケアーしかできない娘に・・・・・・近寄らないで!
今直ぐ・・・そのサメ女から離れて!」
夏子の怒りがもう止まらない。
携帯電話の向こうから、さらにきつい言葉が投げ付けられてくる。
「なによ、私との約束忘れて、クラブ遊びをして、お金使って・・・
一体何考えてるのよ?」
高見沢はもう返答する文言が見つからない。