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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第十一回・参】ちもきのぽぽんた

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「ちゃんと寝れた?」
まだ薄暗くちょっと肌寒い正月町の朝
南の家の前に立つのは南と少し眠そうなありす
「寒くない?」
しゃがんでありすの顔を覗き込んだ南にありすが笑顔を向けた
「歩くと疲れるから一応こんなもん用意したんだけど…怖くない?」
そう言って南が視線を向けたところには愛車ニボシ…の後部車輪カバーの上に座布団を巻きつけた簡易座席がつけられていた
「それとも歩く?」
南が聞くとありすが首を振ってその後ニボシに駆け寄り簡易座席をポンポンと叩いた
「…よっし!! じゃぁしっかりつかまってろよっ」
ストッパーをかけたままの状態のニボシにありすを抱き上げて乗せた南が自分もニボシにまたがり器用に足でストッパーを外した
「出発進行-------!! きゅうりの糠漬け---------!!」

ガタンという衝撃と同時にありすが南にしがみつき目を瞑った
ゆっくりとでも歩くよりは速い速度で朝の少し冷たい風を切って走るニボシを漕ぎながら背中に確かに感じるありすのぬくもりに南が鼻水を啜った
少し狭い路地からまだ黄色点滅の信号機のある交差点を渡ってなだらかな上り坂を立ち漕ぎで南がニボシを進める
「っだ~~~~~~~~!!!;」
上り終えた南が声を発するとありすがクスリと笑ってまた南の背中に抱きついた
「結構キッツイんだよこの坂;」
少し後ろを振り向き南が言う
「でもここ登ったら…っ」
南がギッと音をさせて体を前に出してニボシを漕ぎ出した
「ホラ!! ありす! 港ッ!!」
国道沿いの木々の間から朝日に照らされて光る海面に数隻見えるのは春先行なわれているホタテの稚貝漁の船
その船にくわえて磯舟が沿岸近くに浮かんでいる
たまに横を通る車とトラックの風に目を瞑りながらありすが港の方を見る
赤い灯台と白い市場の建物と出向を待つ船とそしてカモメ
前輪をカーブに合わせて切ると少し急な下り坂をニボシが走り出しありすが南に抱きつく腕に力を込めた
「…うん…ゆっくり…いこっか」
ぎゅっと南がブレーキを握り下る速度を遅くした
岸壁に掛けられて並んだ梯子に登って今日の波の調子を見る漁師のオッサン
テトラポッドにとまったカモメが鳴いてどっかからやってきた猫が足早に道路を横断する
船のエンジンの音が小さく聞こえ波の音もそれに負けじと静かにテトラポッドに打ち付ける
出荷を待つトラックが並ぶ港の駐車場を横切ってカッパを着たホタテ漁を手伝いに来ているオバサン達のやたら早口な会話を聞きながら背中に感じるありすのぬくもりに南はまた鼻を啜る
市場の冷蔵倉庫の向こうに見える小さな駅を横目で見た南がチラッと後ろを見た
「…もう少しで…つく…よ」
南が言うとありすがぴくっと少し動いた
「お母さん…もう待ってるかな」
南がまた言うと南に抱きつくありすの手にまた力が入った
最後のカーブを曲がると【正月駅前】と書かれたバス亭が見えその少し後ろには【観光案内所】という看板を掲げた木造の商店が立っている

「…つい…ちゃった」
キュィイというブレーキ音をさせてニボシが止まり同時に南も動きを止めた
「おっせーぞー!!」
そう言いながら駆けてきたのは中島と坂田
「やー…; ゴメンゴメン;」
器用に片足で南がストッパーをかけ頭を掻きながら苦笑いを向ける
「ありすママンはまだ来てないしついでに京助もまだ」
坂田が言う
「そ…っか」
南がありすを簡易座席から降ろしながら顔を上げずに答える
「変なことされなかったか?」
「早速それかい;」
中島がありすに聞くと南が裏手で突っ込む
「一緒にフロに入っちゃったとか?」
「してないしてないから;」
更に坂田が突っ込むと南が手を振って否定する
「一緒に寝ちゃったり?」
中島がまた言うと今度は南がチラッとありすを見て小さく手を上げた
「キャ---------------------------!!!!!」
それを見た坂田と中島が両手を頬に当てて声を上げた
「オメデトウ!!」
そして南の両手をがしっと握ってブンブン振った
「なにがじゃ;」
バッと手を振り払って南がすかさず突っ込む
「ありす!!」
そうこうしている中聞こえたありすの母親の声に一同が視線を向けた
「迷惑かけなかった? いい子にしてた?」
近付きながらありすの母親がありすに聞くとありすが俯いたまま頷いた
「さぁじゃぁ…行きましょうか」
母親が差し出した手を南とありすが黙って見た
「ホラ、どうしたの?」
急かせるように母親が聞くとゆっくりありすがその手を握った
「南…」
ありすの歩幅にあわせて歩き出した母親の後ろを更にゆっくりと歩き出した南を坂田と中島が追いかけ駅の中に入っていった
まだ電車の来ていないホームで電車を待つ3馬鹿とありすとその母親
「むこうはもう桜が咲いていたんだけど…こっちはやっぱり咲いてないわね」
ありすの母親が言った
「なんたって北海道だし…今時期はタンポポが全盛期だな」
「昨日もタンポポで花見したしな」
坂田と中島が会話する横で黙ったままの南をありすがじっと見る
「…オイ」
そんな南を坂田が肘で突付いた
「え…あ…何?」
ハッとした南が慌てて坂田を見る
「何か話せよ;」
中島が小さく言う
「何か…っても…さ…何?」
南が眉を下げた笑顔で返すと二人も黙った
「…遅いわね」
母親が腕時計を見て呟く
「…いま何時?」
南がいきなり聞いてきた
「あ~…5時36分」
坂田が携帯を取り出して時刻を見て答えると南が顔を上げた
「ちょいいってきますッ!」
「はっ!!?; 汽車くんぞ!!?;」
ホームから飛び降りて駆け出した南の背中に中島が叫んだ
「すぐ戻るからッ!! 待っててありす!!!」
南が大きな声で言うとありすがぎゅっと母親の手を握ったまま黙って南を見て小さく頷いた