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87.ハルカ



 まるで熱帯夜にこびりつく蝉の声のように、心音が耳に鳴り響く。

 ドキドキが体中に波打ち、足が震える。

 そんな、立っているだけでせいぱっいの足で、私はあなたを待っていた。

 今日は祭り。

 にぎわいの人波。

 そこら中に笑顔があふれていて、そこら中でドラマが生まれていた。

 そして、愛やら喜びやらが、まるで温泉の様に垂れ流しにされている。

 私は、愛とか喜びとか、そういったドラマチックな要素を多分に含んだものは、もっと希少価値の高いものだと思っていたけれど、どうやらそこら中に転がっているものらしい。

 だって今日、それが私の手にも入るのだから。

 こんなに身近に私自身がそれを感じているのだから、間違いない。


 私がそんなことを考えていると、社長さんがノコノコとやってきた。

「やあ、ハルカ君。遅れてすまないね」

 社長さんの声を聞いて、顔を見て、何度も何度も思い描いた”存在”を直に感じて、私の体中の血液が沸騰した。

 ボカーン! ブクブク! ドガーン! 見たいな感じ。

 なんていうか、そんな抽象的で幼稚な表現が最もふさわしいような感情。それが私の体を行ったり来たり。あぁ、顔が熱い。ほてりが冷めない。心臓もさらにギアを上げた。

 私は今日一日、このまま意識を保ち続けられるかしら? そう、不安に思えてしまうほど、私の心と体は“恋”という暴れん坊に荒らされていた。