カシューナッツはお好きでしょうか?
75.警察官川島
「ハルカさん! その“カエデ”っていう子の住所しらない!? 実はいろいろと事情があって、その子を探しているんだよ!」
今から3日前、田中敬一から「“カエデ”という少女を探して欲しい」と頼まれた。田中敬一にはいろいろと迷惑をかけたし、力になってやりたいと思い、俺は自分なりに“カエデ”という少女を捜索していた。しかし、中々見つけることができなくて困っていたのだが、まさかハルカちゃんから“カエデ”という少女の名前が出てくるとは……世間は意外と狭いものだ。
「あ、えっと……私も知らないんです…………」
「何でもいいんだ。別に住所じゃなくても、カエデちゃんの行きそうな場所とか知らないかな?」
ハルカちゃんはかなり困ったような表情で「うーん」と言っていた。ハルカちゃんの困り顔、それは俺が初めて見るハルカちゃんの表情で、とてもかわいらしかった。他にも、俺の知らないハルカちゃんの表情や仕草があるのなら、その全てを見たい。俺はこのとき、そう思わずにはいられなかった。
「……あ! そうだ、事務所に行けばカエデさんの住所、わかるかもしれません。カエデさんも、私と一緒にアイドル『カシューナッツ』のオーディション受けていたんです。だから、エントリーシートが残っているかもしれません」
「ほんとに!?」
「はい、ちょっと待ってください。マネージャーさんに聞いてみますね」
そう言うと、ハルカちゃんは携帯電話を取り出して席を立った。食事席から遠ざかるハルカちゃんの後姿は、とてもキレイだった。このとき、俺はいつも、夢や恋を追いかけるハルカちゃんの後ろ姿ばかり見ているなぁ、と思った。
ハルカちゃんの後ろ姿は素敵だけど、俺はやっぱり、正面からハルカちゃんを見たい。
俺はこの時、改めてそう思った。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ