カシューナッツはお好きでしょうか?
69.ハルカ
「おいしいですね」
「…………モグモグ」
「ここのお店、結構有名みたいですよ。『天使のお零れ』って、なんだか変な名前ですよね」
「…………モグモグ」
カエデさんは、ずっと無言でこの店一番人気の『天使の涎(よだれ)パスタ』を食べていた。気のせいだろうか? ずっと私のことを睨(にら)んでいる気がするのだけれど……。
「カエデさんは、何でアイドル『カシューナッツ』のオーディション、受けたのですか? 他にもいっぱいアイドルのオーディションあるじゃないですか……」
私は話題がなかったので、テキトウに思いついたことを口にした。すると、カエデさんは急に食べるのをやめて、先ほどよりもさらに鋭い目で私のことを睨んできた。しかも、その目からは怒りが感じられたので、私は「何かまずいこと言ってしまったのかしら?」と不安に思った。
「あんたはいいわよね。合格して、今話題のアイドルとして輝いているんだから。私はね、アイドルになるのが夢なの。小さいときからずっと、ずっと、ずっと!! アイドルに憧れていたの。アイドルになることが私の全てだったの! ……だから片っ端からアイドルオーディションを受けていたのよ。『カシューナッツ』のオーディションもその一つ。ご覧の通り、すべて落ちていますけど? あんたみたいに、合格できませんでしたけど? 悪い?」
私はどうやらカエデさんの逆鱗に触れてしまったらしく、カエデさんは非常に興奮しながら言葉を発していた。
「あぁ……す、すいません…………軽率な質問をしてしまって……」
私は必死にカエデさんをなだめようとした。しかし、カエデさんの熱は一向に冷める気配がなく、私は困ってしまった。
どうしよう……。
「あれ? ハルカさんもこのお店でランチだったんですか?」
私が困り果てていると、突然マネージャーの未実さんに話しかけられた。何で未実さんがこの店にいるのかわからないけど、助かった。ここは未実さんに助けてもらおう。
そう思った私が、未実さんに事情を話そうとしたそのとき、カエデさんが急に叫びだした。
「あぁ!!!!! あ、あ、あ、う、占いアイドル『クリスタル』の『ミミ』さんだぁああああああ!!! わ、私大ファンなんですぅ!!!」
そして、私のマネージャーである未実さんに、抱きついた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ