カシューナッツはお好きでしょうか?
67.カエデ
「うそ…………」
私はショックを隠しきれなかった。
ファミリーレストラン『でべそ』からふけさんが逃げ出した後、私はふけさんの後をつけていた。デートの相手がどんな女か見てやろうと思ったのだ。しかし、ふけさんのデートの相手は女性ではなく、男だった。
「ふけさんって……ホモ!?」
私は草陰に隠れながら、ふけさんが謎の男と楽しく談笑し、手と手を取り合って走り去っていく場面を目撃した。これはもう、確定的な証拠だろう。
あいつは、ホモだ!
でも、まてよ……。ということは、私はあの“男”に負けたということか!? 私の魅力は、あの“男”以下ということかぁ!!
美人な大人の女性に負けたのならまだ、納得できたかもしれない。私はどちらかといえばかわいい系だし、まだ若いから大人の魅力もないし。でも、ふけさんを魅了した相手が男だ何て、許せない。私が男以下なわけがない!!
私はさらにイライラした。このイライラ、どうしてくれようか。そんなことを考えていたとき、私の目に一人の女が映った。
「あ! カシューナッツ!!!」
私はイライラを忘れて、思わず叫んでしまった。私の目線の先には、アイドル『カシューナッツ』のハルカがいたのだ。
「あ……あなた、もしかして、栗山カエデさん?」
「う、ええ!? な、なんで私の名前知っているの?」
私は心底驚いた。なんで、今話題の新人アイドル様が、まだアイドルとしてデビューもしていない私の名前を知っているの?
「そうだ、カエデさんだ! 私、あなたにすごく感謝していたの。本当にありがとう。あなたのおかげで、私はアイドルになれたの」
「は、はぁ……」
しかも、何故か感謝されているし……。こっちはあんたにオーディションで負けて、ライバル視していたのに……なんか拍子抜けしちゃったじゃない。
「あら? カエデさん、ちょっとごめんなさい。電話だ」
そう言うと、ハルカは電話に出た。
「……はい。はい、急用ですか……。変態? はぁ……そうですか。それじゃあ、ランチはまた今度ですね。いえいえ、こちらは大丈夫ですから。そんなに謝らないでください。えぇ、それじゃあ、失礼しますね」
電話を終えたハルカが、急に私の顔を見つめてきた。
「な、なによ」
悔しいけど、その顔はとてもかわいくて、やっぱりこの子はアイドルとしての才能があるなぁ、と思ってしまった。
「もし良かったら、ランチご一緒しません?」
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ