カシューナッツはお好きでしょうか?
66.警察官川島
「はぁー……」
俺はため息をつきながら、ハルカちゃんに指定されたイタリアンの店『天使のお零(こぼ)れ』へと向かっていた。
ハルカちゃんのことはあきらめると決めたのに、結局、ハルカちゃんのランチの誘いを断ることができなかった……。
「えーっと……ここの店かな? うーん、結構高そうだけど、大丈夫かな?」
イタリアン『天使のお零れ』について直ぐ、俺は予算が心配になり財布の中身を確認した。財布の中には諭吉さんがいたので、俺は少し安心した。
「さてと、ハルカちゃんはまだかな?」
俺は店内を確認したが、ハルカちゃんの姿はなかった。どうやら、先に来てしまったようだ。さて、どうしようか。店の中で待とうか、それとも外で待っていようか……。
俺はそんなことを考えながら、ふと前を見た。すると、そこには一人の少女がいた。少女は草陰に隠れて、じっと何かを観察しているようだった。
何だあの子は? 何で隠れているんだ? 探偵か?
不思議に思ったので、俺は少女の目線の先を追ってみた。
「あ! お、お前、なんでここにいるんだよ!」
そこには、何故か田中敬一がいた。
「お! やぁ、川島くん。奇遇だね、こんなところで」
田中敬一の進行方向の先には、イタリアン『天使のお零れ』……。俺はなんだか嫌な予感がした。
「お前、もしかして、このイタリアン『天使のお零れ』で食事するつもりじゃないだろうな?」
「へ? そうだけど。それが何か? ……ふふふ。聞いて驚くなよ、実は今日、デートなんだよ」
デート!? まずいぞ、これからハルカちゃんがここに来るのに、田中敬一と他の女のデートシーンをハルカちゃんが見てしまったら……。
俺は最悪の事態を想像し、血の気が引いた。
「お前、と、とりあえず、えっと……だなぁ……うーん」
俺はどうしていいのかわからず、焦った。とりあえず、田中敬一には店を変えてもらうか? それとも時間をずらしてもらうとか? いや、まずハルカちゃんにメールをしてだな……。
俺がいろんなことをゴチャゴチャ考えているうちに、時間はどんどん過ぎていく。
まずい、もうハルカちゃんが来る時間だ。
そう思った俺は前方を確認した。すると、遠くのほうにハルカちゃんの姿があった。
「おい! 田中敬一! 事情は後で話すから、とりあえずついてこい!!」
俺はハルカちゃんに見つかる前に、田中敬一の手を取って、イタリアン『天使のお零れ』から逃げ出した。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ