カシューナッツはお好きでしょうか?
65.カエデ
「ふけさん、このあと暇? レッスン手伝って欲しいんだけど」
私達は歌詞の話を終えてから、衣装のことやデビューライブ当日のスケジュールについて話をした。その話の後、午後からダンスのレッスンをしようと思っていたので、ふけさんにも手伝ってもらおうと思い、何の気なしに誘った。
「えっ!! ……ちょ、ちょっと午後は仕事があ、あうっ! あ、あるんだ…………」
ん? 何で最初に「えっ!!」って言った? なんで、そんなにしどろもどろなの? 何で途中「あうっ!」って舌を噛んだの? ……怪しい。こいつ、何か隠しているな。
直感でそう思った私は、カマをかけてみた。
「このあと、誰とデートするの?」
「ほへぇ!?」
ふけさんの目が、ものすごいスピードで泳ぎだした。ビンゴだ! こいつ、仕事じゃねーな。このあと誰かとあうんだ。
「……どんな人? 美人?」
「は、はははは……は? し、仕事だって、言っただろう? そんな、で、デートなんて……ははは……はは?」
しかも相手は女だ! ……こんちくしょう、私がダンスや歌のレッスンをしている間に、デートするつもりだったのか!! もしかしたら、今まで仕事があるから忙しいって言っていたのも嘘だったのか!? ……許せん。この男、許せん!
「そ、それじゃ。私はもう帰るから。レッスンがんばってぇ〜」
そう言うと、ふけさんは直ぐにファミリーレストラン『でべそ』から逃げ出した。
「あ、ちょ、ちょっと!! 嘘つくなぁ!!!」
私はこのとき、心底イラついた。ふけさんが仕事サボってデートすることに対してじゃない。ましてや、私に嘘をついたことに対してでもない。
私がイラついたのは、私以外にふけさんのことを魅了する人がいたということだ。それは、私がふけさんを魅了できなかったということ。
他の誰も目に入らないほど、人を魅了できなければ、アイドルとしては力不足。その現実を突きつけられた気がして、心底イラついた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ